「とらぶる☆いんきゅばす」 第2話


     第2話 オリジナルの投稿日:2008/01/25(Fri) 20:42
           
           白鷺学園の門を通ると、
          「お姉さーーーん」
           褐色の小さな女の子が走ってきた。
          「おはようーーーっ!!」
           美紗子の前で勢いよくブレーキ。キキーっと止まった。
          「お早う、マールちゃん」
           マールと呼ばれた女の子の耳は尖っていた。
           マールはダークエルフの女の子で、クオーターらしい。
          「お腹の赤ちゃん、元気?」
           がばっと美紗子のお腹に抱きついた。
          「えへへへ」
           顔をお腹につけて、すりすりする。
          「ああ、マールったら、ずるい」
           マールの後ろから別の声がした。
          「早いもん勝ちだもん」
           小鬼に負ぶさっている小さな人魚に言った。顔立ちから察すると、女の子の人魚のようだ。
          「お兄さん」
           小鬼は、分かってるよとばかり人魚の後ろから抱き上げて、そのまま美紗子のお腹に近づけた。
          「どんな赤ちゃんなのかなぁ。楽しみぃ」
           小さな人魚は、やはり顔を美紗子のお腹に、すりすりする。
           (きっと、蝙蝠のような黒い翼を生やした赤ちゃんだろうなぁ。小さな牙なんかあったりして)
           ふたりにお腹をすりすりされながら、美紗子は口にしないで答えた。
           とてもつらい。
           この子達は、純粋に生まれてくる子供が楽しみなだけ。異種の子を産まねばならない気持ちを
           分かってもらえないのが、つらかった。
          「あっ、そうだ。後でお母さんが来るって言ってたよ」
          「アイリーンさんが?」
          「うん、お腹の赤ちゃんが、ちゃんと大きくなってるか見るんだって」
           大事なことを忘れていたとばかり、マリンが言った。
          「お母さん、経験者だもんね」
           ねえーっ、ってマールが相槌を打つ。
           (アイリーンさんは、無邪鬼くんとマリンちゃんを産んだ人魚だもんね)
           無邪鬼とは、マリンを抱き上げている小鬼の男の子。マリンとは血を分けた兄妹だ。ちなみに
           マールは違うらしい。
           (アイリーンさんのご主人は確か…)
           少し考える。
           (そうそう、天邪鬼)
           無邪鬼を見ると思い出した。
           額に小さな角があるが、かえってそれが愛らしい。
           (髪の毛で角を隠して、もう少し大きくなれば、アイドルで食べられるわね)
           無邪鬼がにこっと笑った。ありがとう、と無邪鬼の顔が言っていた。
           父の天邪鬼もそうだが、無邪鬼はしゃべらない。が、表情で何を言っているのか、何となく
           分かる。
          「それにしても…」
           美紗子は郊外の立山(たつやま)を見上げながら考える。
           (ここ、白鷺市は変な街よね)
           手前の立山から奥の山々一帯を妖(あやかし)の森と言った。
           森で迷子になった子供が鬼に助けられたとか、逆に人間に助けられた女の妖が恩返しに来た
           とかの昔話が、ここにはある。
           それはおとぎ話ではなく現実にあった話、もしくは話のネタがあったのだろう。
           西の果ての国のように、人間と妖が命のやり取りをしたなどという話は、この地方には1つ
           もなかった。せいぜいが、お互いの領域を侵して、ひどい目にあった、というくらい。
          「あ〜ら西澤さん。お早う」
           上品な物言いの中にツンツンしたものが感じられる。美紗子はますます憂鬱になった。
          「お早う、真藤さん」
           振り向くと、そこにはこの街のお嬢様、真藤麗子が今まさにリムジンから降りようとしていた。


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