シーン5

キーンコーンカーンコーン

夕映えの放課後。

歩道をゆく剛。後ろには愛と美雪がつづく、

「おごってくれるんだって。」と、美雪

「愛ちゃんにねぇ。」

「けち。 部活サボったのにぃ。」 
ふくれっつらの美雪

「美雪にはマスターがおごってくれるさ。」
土下座のマスターは美雪がお気に入り。

「うーん・・・・それって喜んで良いのかなぁ。」
困惑の美雪。 おじさんに好かれても・・・・・・余り嬉しくはない。

深く考えないほうが良いんじゃない。」と、愛が言う。

「そうそう、素直が一番。」 
素直か・・・・麗子のことが頭の隅をよぎる。

「うん、そうだね。」
美雪は笑顔を取り戻す。 美雪には笑顔が一番だ。


ブォーン。 剛たちを追い越して行くリムジン。
後部座席には物憂げな表情の麗子が・・・・・・・・・・
その膝の上には詩集・・・・・・「恋人達の詩」


「あれ、新藤麗子の車だろ。」

「ああ。」

「あの人先輩に泥水かけたのに謝らないのよ。」

「えっ、ひどいなあ。」

「まあ、後で新品の制服届けてくれたけどなあ。」
素直か・・・・麗子には無いものなんだろうか。剛はそう思った。

 シーン6

喫茶「土下座」
カウンターの中に剛、愛ちゃんと美雪はその前の席に座り、プリンアラモードを食べている。


「そう言う謝り方しか出来ない奴なんだな。」
エプロンをかけアルバイト中の剛。

「そう言う人って案外淋しいんだよ。周りはおべんちゃらいう奴ばっかりでさあ。本当に話せる友達居ないんだよ。」
美雪はスプーンでプリンをすくいながら言う。 ぱくり。

「ふうん。」美雪の言葉に考えさせられる剛。

カタタ。
マスターが新たにプリンアラモードを美雪の前に進める。

「さすがは、美雪ちゃん。」
マスターは、美雪の優しさが嬉しかったようだ。

「えっ、これ二つ目だよ。」
目をぱちくりさせて美雪はマスターを見る。

「美雪ちゃん優しいから。」
マスターは美雪を好きな自分の目に狂いは無いと確信している。

「うふ。サンキュー。マスター。」
確かに素敵な娘である。

 シーン7

昼休みの屋上。
麗子は「恋人達の詩」を片手に手すりに寄りかかっている。
その視線は詩集には注がれていない・・・・・・視線の先には剛がいた。

「山掛けうどんが美味しいんだよ、あそこ。」
「はははっ、へー山掛けねぇ。」
「本当だってば。」

美雪達と他愛の無い話しをする剛。
麗子は離れてそれを見ているだけ・・・・・・
美雪のように素直になれたら、剛と一緒に楽しく話せるのだろうか。
そう思ってもそう出来ない麗子がいた。




教室で稔とふざけてる剛。
入り口に立ち剛を見つめているだけの麗子。
目が合えば、視線をそむけて去って行く麗子。
剛もそんな麗子に気づいていた・・・・・・・・・・・。




新藤邸
麗子の部屋・・・・天蓋のかかったベットに横たわり麗子は想う・・・・・・
薄紫のサマードレス、豊かな髪を広げて、
傍らには詩集が。
その表情は柔らかく、お嬢様を演じる仮面は外されていた。 頬が赤い。

「あ・・・・・うっ、まさか・・・・・この新藤麗子様ともあろうものが、あんな野蛮で礼儀知らずのことを・・・・・。」

図書室でのこと、屋上でのこと、想うまいとしても剛のことが浮かんでくる。
振り払うかのように起き上がる。 
誰よりも麗子自身が困惑していた、自分の気持ちに気づいているのに・・・・・・
それを否定しようと。

「冗談じゃないわ・・・・・・・ありえない事よ。う・・・・」
新藤家の令嬢としての自分を守るかのように、膝をかかえ背を丸めた。

 シーン8

「運動時にはエネルギー代謝が盛んになりますが、それに伴って酸素やエネルギー源を補給する事が必要になります。」
静香先生の授業。 剛は何か張り合いの無い今日一日であった。
麗子が休んでいる。
剛は主人のいない麗子の机を眺めている。
授業など聞いてはいない。

「・・・・そこで・・・・・山口君次ぎ読んで。」
そんな剛を静香先生は指名した。

「あ、ううう、えっ。」
あわてる剛。 




「麗子風邪らしいぜ。 いいのか見舞いに行かなくて。」
稔が麗子の席によりかかりながら言う。

「なんで俺が、服もらったんだから稔が行ってこいよ。」
剛はあえて無頓着に答える。 気にはなるのだが。

そんな剛に稔は耳打ちする。
「あぁん、ううん。あのさ、麗子って剛にばっかり突っかかるだろあれって好きよ好きよの裏返しじゃねえかな。」

「ええっ、寒気が・・・・・。」
思い当たる点もあるのだが。

稔と剛の会話をその背に聞いていたのか、春彦は席を立つ。
その春彦に剛は言った。
「あっ春彦。麗子と仲が良いんだから見舞いに行ってやれよ。」

「あははははっ、冗談言うなよ。」
剛の問いかけに軽く答え春彦は去っていった。

「な、何なんだ・・・あいつ・・・・。」
いつも麗子に合わせている春彦が実は・・・・・・美雪が言ってたのはこのことかと剛は思った。
麗子には仲間すらいなかった。

 シーン9

放課後。 

校門をでる剛の前に、定岡がいた。

「お・・・・」たじろぐ剛。

「是非お嬢様の見舞いに来てください。」
定岡は剛にふかぶかとお辞儀をする。

「えっ。」

「お嬢様がうわごとで貴方の名前を呼んでいるのです。」
定岡が言う。

「えっ、そんなに重症なのかよ?」

「ここ一日二日が山かと・・・・・・」

「えっ」
信じられないという表情の剛だった。



新藤家に向かうリムジンの中。

「あんたも大変だよなあ。あんなのにこき使われて・・・・・」


「剛さん、お嬢様を・・・・お願いします。」

「え、ああ。」 
バックミラーの中の定岡の目はサングラスで見えなかったが剛は定岡の想いを感じ取っていた。




新藤邸


「こちらへ。」

「どこいくんだ。」
広々とした邸内。 

通された剛の視界に光がきらめく。
「プール?」



小鳥の声がする庭内に水音が響く、麗子だ。
夏の太陽を全身に浴びて水の中を漂っていく。
「風邪・・・・・ひいてんだよね。」
半分呆れたように定岡に問いただす。

「は。」
定岡は頭を下げる。

「ああ・・・・そう・・・なの。」
定岡の態度に気おされてあいまいに受ける。

麗子は見事なプロポーションを包む水着のラインを直しながらプールサイドにあがる。
歩み寄る剛を横目で見ながらタオルで髪を拭く。 

剛は麗子の姿態に魂を抜かれていたが気をとりなおして
「あ、お前風邪ひいてんだろ。 いいのかよ泳いだりして。」

「うっふふふふふふ。貴方の隣に座っていると息苦しいからっズル休みしただけよ。」
プールサイドのデッキチェアにかけて麗子は言う。

「じゃあ見舞いっていうのは、・・・・・・。」
呆れ顔の剛。

「いつまでも学校を休んでいるわけにもいかないでしょう。 嫌な顔でも何度か見てれば少しは免疫がつくと思って・・・・・ふ・・・それで来てもらったのよ。」
定岡から差し出されたオレンジジュースを平然と受け取りそれを飲みながら麗子は続ける。

「帰る。」

「剛さん、お願いします。」
定岡が剛の前に頭を下げる。

「逃げるの。」
麗子は言った。

「なに!!」

「この私に刃向かう男は今まで一人も居なかったわ・・・・・・あなたを除いてね。」
だから、だから・・・・わたしは、あなたを・・・この言葉を麗子は言えなかった。

「それは、名誉な事で。」

「野蛮で礼儀知らずだけど・・・・少しは骨の有る男と思っていたのに・・・・・やっぱりタダの不良ね。」

「ふざけるなっ!!!礼儀知らずはおまえだろっが!!!」」

「じゃあ、わたしのヴィーナスのようなプロポーションに圧倒されて怖気づいたのかしら。うふふふふふ。」
挑発的なポーズをとり髪をかき揚げながら麗子は笑う。

「だ、誰が!!」
いきり立つ剛。

「オイル塗って。」
取り合いもせずにそう言うとデッキチェアーのうえにうつ伏せに寝る。

「お願いします。」
定岡はオイルの瓶を両手で剛の前に捧げる。

「おおっ。」
俺がやるのか?の剛。

「お願いします。」
さらに定岡。 その目はサングラスの下で語っていた。
『お嬢様をお願いします。』 リムジンの中で言った言葉をもう一度目が言っていた。
定岡だけが本当の麗子を知っていた。
麗子が剛を好きな事も、好きだから意地を張る事も。
剛の前で麗子が仮面を脱ぎ普通の少女になりたがっている事も。
そしてそれが出来ない麗子だという事も。

「ふう。負けたよ、頭を上げてよ。」

オイルの瓶を受け取る剛。 定岡の気持ちが伝わったのだ。



デッキチェアの隣の椅子に腰掛けオイルを塗る剛。
太ももから徐々に上へ・・・・・・・・

「はあぁぁ。」
ひどく満足そうな麗子。うっとりと目を伏せている。

「ああっ。」
敏感な部分に剛の手が触れたのか声を上げる。

「なんだよ。」
驚く剛。

「何ぐずぐすしてるの、もっと丁寧に!」
それを隠すように命令口調で剛に言う。 でも・・・・・顔が赤い。

「命令するな、だったら定岡に代わるぞ。」

「まあ。わたしのこのヴィーナスのように美しい身体にふれられるという栄誉を放棄するなんて身のほど知らずだわ、黙って続けなさい。」
さらに続ける麗子。 お嬢様としての態度は崩さない。

「く、ええい。 ああ、てい、てい、ええい。」
やけになってオイルをふりかける剛。
麗子が水着の背のフォックを外す。 
胸が、胸が・・・・・・・・・・・大きな胸が。

「おおっ。」
剛。
「ううっ。」
定岡。

「塗って・・・・・・・・・・」

麗子の声もかすれている。

「ごきゅ。」
剛の喉が鳴った。

剛にオイルを塗らせながら目を閉じた麗子・・・・・・・

              誰も知らないこの想いまだどうしてもうまく操れなくて
              一人隠れてる大きな木の木陰の中
              ああ、会いたい、ねえいますぐ
              二人で抱かれたいよ
              いつか貴方の近くで微笑みたい
              そっとふれあうほどとても自然な二人ね
              言葉に出来ない・・・・・・・

南の島に二人きり・・・・・・・
青空の下、海辺をかける二人・・・・・
水と戯れたかとおもえば駆け出す麗子、追う剛・・・・
木陰に休む麗子の胸元に、剛がハイビスカスの花を刺す・・・・・・・

想いの中の麗子は普通の少女だった。
新藤家のお嬢様という仮面は要らない。 素直な可愛い麗子だった。




「おまえさあ、いつもこんな風ならかわいいんだけどなあ。」

剛の言葉に麗子は想いの世界から引き戻される。
「え・・調子に乗ってわたしを他の女の子と一緒にしないで!!!!!」
両手で剛を突き飛ばす。

「う、うわわわわっ。」  ドッパーン
堪らず剛はプールへ・・・・・・

「つ、剛さん。」
剛を追って定岡も飛び込む。 律儀な定岡であった。

「ふんっ。」
いつもの麗子に戻っていた。

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