シーン1

雨だれがひとつ水溜りに波紋を写す、雨上がりの朝。
すがすがしい表情で剛が駈けて来る、軽いジャンプで水溜りを飛び跳ねて。
今日は夏休開け2学期の始まりの日だ。
生徒達の登校風景の中には愛ちゃんの姿と慎二の姿も見うけられる。


    水溜りの水を弾きながら黒塗りのリムジンが生徒たちを追い越して行く。


「おはよう、愛ちゃん。」

「あっ。」 満面の笑みを見せ振り返る愛。

「おはよう。」

「おはようございます。先輩。」

「雨上がって良かったね。」

「はい、今日からまた毎日会えるんですね。」

「ああ。バイト代いっぱい稼いだから今日はおごるよ。」


パッパー クラクションの音、迫り来るリムジン・・・・・・・


「えっ。」

「きゃぁ。」

バシャー  派手にあがる水飛沫。
剛は愛を必死でかばい、ずぶぬれに・・・・

「かぁー、くそうぅ。 ひでえ運転しやがって、このー。」

悠々と校門の前に横付けするリムジン剛は其れに駆け寄った。
おいこらっ、謝れよ。」

リムジンの窓を開けながら
「そんなとこに立ってると邪魔よ。」 と、麗子。

「麗子っ、人に泥水をかけといてその言いぐさは何だ。」

剛の事など全く意に介さずに麗子はバックミラーに映る定岡に向かって言う、
「定岡、さっさとドアを開けなさい。 わたしに遅刻させるつもり。」


「す、すみませんお嬢様。」
と、言いながら定岡運転席から降りる。
光るサングラス、たじろぐ剛。
「ぐ、ぐわ。」

定岡は剛にあゆみより深深とお辞儀をしたあと、麗子の為にリムジンのドアを開ける。

麗子のふともも。

「謝れよ、麗子。」

凛として立つ麗子、ポーズは何時もの腕を組んだものである。
「あら、じゃあ公衆の面前で土下座しろとでも?」


「そこまで言ってねえだろ。」 向き合う二人。

「定岡、この人にクリーニング代を払ってあげなさい。」


「はい、どうも失礼しました。」剛に頭を下げつつ、麗子の指示で財布を取り出す定岡。

「財布ごと渡してあげなさい。 後で因縁をつけられると困るわ。」


「あ、あのなあ。」

「どうぞ。」定岡財布を剛に差し出す。


「いらねえよ。」

「やせ我慢だわね。庶民の感情は理解に苦しむわ。」 髪をかき揚げながら麗子は校内に入って行く。

「く・・・・」剛はそんな麗子を眼で追う。その隣で定岡はお見送りのお辞儀をしていた。


不思議そうに剛に話しかける愛。
「先輩、あの人とお友達なんですか。」

「え、た、ただの同級生だよ、とにかく自分を中心に太陽が回ってると思い込んでる変な奴。」
そう、剛にとって麗子はそういう相手だった・・・・・・・・

愛、理解に苦しむのか
「先輩が、太陽なんですか?」

「な、なんでそう・・・」剛、困惑。

麗子の後姿を見送る剛だった。

 シーン2

 3−C
2学期最初のHR。

「席替えをしますから、各自札を引いて頂戴。」と、静香先生の声。
黒板の前の椅子にかけ、腕組をして席順の札をひく生徒達を見ている。

「Eの3番だから・・・・」と、女子生徒
「A3番だから、前と同じだ。」と、慎二。

「ちぇっ、1番前じゃ居眠りも出来ねえ。 剛の奴は何処だ。」
自分のくじ運の無さに悪態をつきながら稔は剛のことを伺う。


剛は濡れた服をジャージに着替えて席につこうとしていた。
窓際の最後列。 良い席だ。

「はぁ、ふぅ。 へへへっ。」 剛ご満悦。

「また前と同じ後ろの席かよ、悪運強いなぁ。」うらやむ稔。
「お、おもしろいことになったぞ。」
剛を見ながら稔。


剛は頬杖を突きながら窓の外を眺めている。後ろの壁には今朝濡れた制服が掛けてあり、
隣の席はまだ開いていた。

 その開いている席に・・・・・・・・すっと身ごなしも優雅に誰かが・・・・・・

「おっ。」目をやる剛、そこには・・・・・

「ぎっ、だぁぁぁっ。」 驚く剛。 麗子がすまして座っていた。


「感動の表現が、お下品ね。」と、麗子。

「誰が感動なんかするか。」と、剛。

「ひゃ、ひゃ、ひゃぁ、最低の組み合わせ。はははっ。」稔が喜ぶ、喜ぶ。



麗子髪をかき揚げながら、
「あら、意外ですこと。 わたしの隣に座れるなんて幸運以外の何ものでも無くてよ。」


「不幸以外のなにものでもない。」噛み付く剛。

ジャージ姿の剛を一瞥して麗子、
「それにしてもその格好、何とか成らないかしら。体育の時間には早過ぎてよ。」

「誰のせいでこんな格好してると思ってんだよ。」いきり立つ剛。

またも、意に介せず麗子、
「質問が有るのなら定岡を通して、新藤家にお願いしたいわね。」

「おまえ友達なくすぞ・・・あっ、もともと居なかったっけ。」
言ってから剛はしまったと思った。 

剛のその言葉に麗子の表情が曇った。
確かにその言葉は真実だった。
新藤家のお嬢様その立場のせいでいつからか麗子自身自分を装っていた、
本当の自分を見せない者に友達は出来なかった。少なくとも本当の友達は・・・・・
麗子は剛から目をそらし、
「あなたって、本当に変わっているわ。 天然記念物ものね。」

そう答えるしか出来なかった。

「お、おまえなぁ。」
剛は呆れて、一瞬でも麗子寄りの考えをしてしまった事を取り消す。



パン、パン。  静香先生の手を打つ音。 剛詰め寄っていた麗子から自分の席につく。
「はい、静かに静かに。じゃあ、この席で2学期頑張りましょう。高校生活も残り少ないん
だからお互いに良い思い出を作りましょう。」

『麗子のとなりでか?先が思いやられるぜ。』


がらがらがらっと、教室の入り口が開き定岡登場。手には何かしら包装された箱を持っている。

「はい?」と、静香先生。

「失礼します。」
定岡が言いながら教室に入ってくる。

「あ、あのまだホームルームの最中なんですけど・・・。」
制止しようとする静香先生。

「私のことは気にしないで下さい。黒子のようなものですから。」

「黒子と言われても・・・・えっ。」

定岡は静香先生の言葉を聞かず教室内に進む。
他の生徒達は驚きの視線でそれを見ているだけだった。やがて包みを剛に差出し定岡、
「どうぞ。」

「え?」と、剛。 

それを満足そうに見る麗子、
「晴彦さんが頼んでいる高級店に超特急で作らせたのよ。生地はイギリスの高級品。
 まあ、貴方にはお似合いに成らないかもしれないけど。」
と、得意げに説明する。
『わたしは貴方達一般庶民とは違うのよ。こんなことができるのはわたし、新藤麗子だからよ。』
言葉の影にはそんな態度が見えていた。


箱を開けると・・・・・男子生徒用の制服が・・・
「誰がこんなもの着るかっ、 俺はあの青春の汗と涙が染み込んだ・・・あの・・・あの」
といいつつ壁に掛けておいた制服を見る剛。

・・・・・定岡がそれを手に取ろうと・・・・・・慌てる剛
「おい、何してんだよ。」と定岡に、

「お嬢様が焼却処分しろと。」平然と定岡。

「やめろ。」と剛。



麗子の用意した制服を手に取り晴彦が、
「麗子さん、やはりテーラー多摩川は良い仕事をしますね。」

「さすがは晴彦さん。誰かと違ってものの価値が解かっていらっしゃるわ。」
麗子は春彦も同種の人種と思っている、仲間だと。 けれど・・・・・・



あっけにとられていた静香先生、気を取り直したか、
「そこっ、まだホームルーム中よ。静かにしなさいっ。」


がららららっ。 教室の扉を開ける音。
「失礼しました。」 丁寧にお辞儀をして定岡退場。手には剛の制服が・・・・・・・


「がああっ。」
呆然とする剛。 麗子は何事も無かったかのように目を伏せている。


ドン。 静香先生出席簿で教卓を叩き、生徒を静め、

「ううん。今週の終盤は新藤さんと山口君。明日から宜しく。」

「げっ、ええ。」
驚く剛であった。

 シーン3

 放課後の教室。 
教卓の上には仰々しく生け花というか盆栽というか・・・とにかくおおげさに
『新藤麗子作』の札のついた・・・・・・生け花が置いてある。


「はあああ、どうしてこう・・・。」
どうしてこう自分をひけらかさなきゃいけないんだ、いつもいつも。
嘆きながらその札を取ろうとする剛。

「お待ちなさい。」その背後からいつものポーズで腕を組み麗子が現れる。
「油断もすきも無いわ。やはり定岡を見張りに付けておくべきだったわ。」

花も派手過ぎるし、この札もさあ・・・・・」


パンパンパン 拍手の音
「おーお、これは素晴らしいこの生け方は池坊ですね。さすがは麗子さん。」
二人の会話に晴彦が割ってはいる。

誰かさんと違って晴彦さんには美意識と言うものがあるわね。」
まだ麗子は春彦を仲間と思っている・・・・・・

「ふっふふふふふ。」 
得意げな晴彦、白い歯が光る。

偽りの光だ。

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