お嬢様刑事  麗子 

 第3話 

 「死体はどこ?」

 麗子がてきぱきと叫んだ。

 「こっちです。」

 係員が麗子を案内する。けんたろうはその麗子の早足についていくのがやっとだった。

 事件となると麗子の目の色が変わっていた。大股ですっ飛ぶように現場へ急行する。やはり
刑事なのだ。いくらお嬢様といっても事件となるとこの緊張感。まさしく刑事の顔だった。

 係員が案内したのは六本木のホテルの一室。都心のこのホテルは、芸能人やVIPなども
利用する超有名ホテルだ。

 ドアが開けられる。恭しく中を指さす係員を後目に麗子は肩で風切ってホテルの部屋へ
入っていった。けんたろうは必死で後を追うようにして、麗子に続き部屋へ入る。

 「こちらです。」

 係員が指さしたところはベッドだった。ドアを開けると、そのベッドの惨状がどっと目に
飛び込んで来た。

 「これはひどい・・・」

 けんたろうは思わず顔を背けた。辺り一面血の海だった。被害者は犯人と格闘したのだろうか
ベッドのシーツはくしゃくしゃに乱れ、血がべったりとついていた。

 被害者の男はうつぶせにベットに横たわっていた。頭は半分ベットから落ちかけ、そのワイ
シャツははだけたままだった。

 あまりの悲惨さに、麗子もけんたろうも無言となる。バシャバシャと係員が証拠写真を撮る
そのフラッシュの音だけが部屋に響いていた。

 麗子はさっと仏さんに手を合わせると、すぐに顔を上げて係員に質問を始めた。

 手慣れている・・・・けんたろうはそう思った。やはり麗子は刑事として一流なのだ。

 「死因は?」

 「胸部を刃物で一突きです。心臓まで達する深さ15センチの傷が致命傷と思われます。」

 「凶器は?」

 「はい、あちらを!」

 係員が指さした方には鑑識課の者達が証拠品を集めていた。

 「刃渡り20センチの文化包丁。血痕がついています。被害者の血液型と一致しています。」

 「直ぐに指紋検出。この部屋の全ての指紋を一切合切洗い出すのよ、いいわね?」

 「はい。わかりました。」

 「他に被害者は?」

 麗子はぐるりと部屋を見回した。鋭い目つきがどんな小さなことでも見落とすまいと、じっと
部屋中を見渡す。

 「こちらへ。」

 伏し目がちに係員が言った。なんだろう? まだ他に被害者がいるのか??

 係員が案内したのは、窓側の部屋だった

 あっ!!・・・・・・・・・

 思わず、けんたろうは息を飲んだ。

 「・・・・こっ、これは・・・むごいっ・・・・」

 被害者の妻であろうか? 中年の女性が首や背中を滅多刺しにされて倒れていた。
腕にも無数の切り傷がある。そしてその女性の死体の下には、まだかわいさを残した小さな
少女の死体があった。

 「被害者の妻と子です。妻は子どもをかばいながら腕に傷を受けたものと思われます。」

 さすがに係員も重く沈んだ声で言った。

 「ということは・・・一家惨殺事件ってわけね?」

 麗子もきりっと引き締まった眉を曇らせた。

 「ゆ、許せないわ・・・・こんなかわいい女の子まで・・・・」

 麗子の唇がわなわなと震えた。麗子はふうと大きなため息をつくと天をにらんだ。

 思い詰めたような麗子の目。何を考えているのだろうか?刑事としてたくさんの事件現場は
見てきたはずなのに、麗子は何かを思い出すかのようにじっと宙を見つめていた。

 「絶対に許さない・・・・この新藤麗子が命にかけても犯人を挙げてみせるわ。」

 ひとりごとのように麗子がつぶやいた。しかしけんたろうはその麗子の口調になにかものす
ごい執念のような強い意志を見ていた。

 なぜか、ただの刑事としての使命感からだけではないような気もした。いったい麗子のこの
執念のようなものはどこから来ているのだろう?

 「とにかく・・・前代未聞の残虐な事件です。」

 麗子の横に立つ麻布署の男の刑事が麗子に言った。

 「警視庁の面目にかけても、絶対に犯人を挙げないといけない。」

 麗子はそれには振り向きもせず、じっと前を向いたままぽつりと言った。

 「当然だわ。」

 眉をきりりと結んで麗子は捜査班の者達の方へ向き直った。

 麗子の頭が鋭く回転する。捜査は初動が大事なのだ。ここでつまらぬ予見で見当違いの
捜査を始めてしまうと、捜査自体が大きく遅れかねない。あらゆる可能性を考えて冷静な
判断をしなければならない。

 「まずは正確な死因の特定と、死亡時刻の確定よ。直ぐに検屍にまわしなさい。」

 「はい。了解です。」

 「それから、あの凶器の出所を洗って!!近辺のディスカウントストア、金物屋、デパート
  すべてリストアップするのよ。そしてそれを虱潰しにあたるのよ。いいわね?」

 「はい。わかりました。」

 「凶器以外に、犯人の残した遺留品はまだみつかっていないの?」

 「はい、未だ見つかっておりません。」

 「全力で遺留品捜査よ。いいわね。髪の毛一本、糸くず一本見逃しては駄目よ。」

 「了解!」

 係員たちが部屋中に散っていく。指紋検出、証拠押収、遺留品捜査、全力あげての捜査
が始まった。


 てきぱきと指示をする麗子。そんな麗子をけんたろうは羨望の眼差しで見つめた。

 ・・・・す、すごい。さすが麗子先輩だ。オレもがんばらなくっちゃ。

 いつしか麗子を呼ぶ名が先輩に変わっているのにはけんたろう自身気づいていなかった。

 「で、被害者の身元は?」

 「はい。大森彰一、47歳。都内で貿易商をしています。」

 「会社に連絡。被害者の近辺も聞き取り調査よ。まずは被害者に恨みを持つものがいないか
  どうか徹底的に洗うのよ。」

 「わかりましたっ!」

 指示を受けた刑事たちが次々に都内に散っていく。

 「物取りの犯行の可能性は? 被害者の持ち物が荒らされた形跡は?」

 残った刑事たちに麗子が聞く。

 「ご覧ください。」

 担当の刑事が指さしたものはトイレだった。

 「こ、これはぁ??」

 けんたろうは思わず叫んでいた。





BGM:YAMAHAインターネットMIDI素材より


君は麗子の活躍を知っているか。

お嬢様刑事、麗子!この難事件を解決できるか!
詳しくは、次回を待て!
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