お嬢様刑事
麗子
第2話
「ちょっと。あなたね。今度の新入りってのは?」
部屋に入ってくるなり、麗子という女はそう言った。
しかたなく、軽く会釈した。
「はあ、けんたろうです。よろしくおねが・・・・。あっ!」
挨拶をやりかけていて、けんたろうはハッとした。
麗子がいきなりつかつかと近寄ってきて、けんたろうのよれよれのネクタイを握ったからだ。
麗子はけんたろうのネクタイをぎゅうっと引っ張った。
「あううう。な、何するんですか?」
「ふふ。こうすると犬そっくりね。」
麗子はそのままネクタイをぐいぐい引っ張る。けんたろうはたまらず床に手をついた。喉が
ぎゅうぎゅうと絞られて苦しい。おもわずごほごほっと咳き込んだ。
「ごほっごほっ! や、やめろお! なにするんだ!」
「あら。あなたは根性ありそうね。前の相棒はホントに根性なかったからねえ。定岡っ!」
定岡と呼ばれて、黒服にサングラスの男がつかつかと歩み寄った。
「はい。なんでございましょう? お嬢様。」
「ほら。このネクタイを持ちなさい。匍匐前進よ。いいわね。」
「はっ! かしこまりました。」
そう言うと、黒服の男は力任せにネクタイを引っ張った。
「ぅぅぅぅ。い、いたーーい。や、やめろお!!」
「おい。お嬢様の目にかなったぞ。お前、がんばれよ。」
突然、黒服の男が低い声でけんたろうの耳元でつぶやいた。
「へ?・・・・」
「刑事は張り込み・聞き込みと体力勝負なんだ。犯人と撃ち合いになれば、地面を這って
でも前進しなければならない。わかるな?」
「・・・? どういうこと?・・あっ!」
聞き返す暇もなく、黒服の男はまたも力任せにネクタイを引っ張った。ぐいぐいと。
「う、うぐぅ・・・ぅぅぅぅ。」
けんたろうはたまらず、犬のようにはいつくばって、ぞろりぞろりと這った。
そのけんたろうの首を、まるでネクタイを犬の鎖のように引っ張りながら、黒服の男は
部屋を一周した。けんたろうはうーうーうなりながら、犬のように部屋をはい回った。
苦しくて声も出せなかった。
「もういいわ。定岡。なかなか根性あるわね。」
黒服の男がやっとネクタイを放した。
「ふーふーぜいぜい。ふーふーぜいぜい。」
けんたろうの荒い息が部屋にこだました。
「いいこと?捜査現場はいわば戦場。甘ちゃんではつとまらないのよ。あたしの相棒刑事は
いわばあたしの命を預けたもいっしょの仲間。あたしの相棒はあたしの指示一つで、犬の
ように忠実に動けなくてはお互いに命がないの。いいわね。わかった??」
だが、けんたろうはまだ返事も出来ずに、はあはあと息をしていた。
だが、その時・・・。
静香課長のデスクの電話がけたたましく鳴った。
黒いダイアル式の古風な電話だった。今時こんな電話機を使っているなんて・・・。
「はい。もしもし。こちら捜査一課っ! はい。ああ、多恵子ね。どうしたの?
え? なにっ? 殺人(ころし)っ??? わかった。すぐ現場へ直行するわ。」
けんたろうの匍匐前進をけらけら笑っていた回りの雰囲気は一瞬にして消え、緊迫した空気が
ながれる。皆の視線がきゅっとつり上がった。
「殺人(ころし)よ。現場は、港区六本木。麗子、それにけんたろうっ!!出動よ。」
「ふん。早速出動ってわけね。さ。行くわよ、新入り。」
麗子がけんたろうの腕をつかむ。けんたろうはまだはあはあと息が上がっていたが、それには
かまわず、麗子はけんたろうの腕を引っ張って、部屋の外へと飛びだした。
「ま、待ってくれえ!!!! ひえええええ!!!!」
けんたろうの悲鳴を残して、麗子とけんたろうは部屋から消えた。
「課長? 大丈夫なんやろか、あの新入り?」
「麗子は人使いが荒いからねえ。あははは。」
だが、静香課長はにこりともせずに窓の外を眺めていた。
ぷうっ〜〜とタバコの煙を吐き出すと、静香は、吸い殻を灰皿にぎゅっと押しつけた。
・・・泣く子も恐れるアマゾネス署の麗子・・いまだ彼女の相棒をやりきった男はいない。
・・・けんたろう・・・・・彼は、彼女の片腕になれるかしら???
BGM:インターネットMIDI素材「ロックンロールキッズ」
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でました。お嬢様刑事、麗子ぉ!! 詳しくは、次回を待て! |
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感想、待ってます。sokotuya@iiwa.net