お嬢様刑事
麗子
けんたろうは内ポケットに入った拳銃をもういちど上着の上からそっとなでた。
固い感触がけんたろうの胸を熱くする。
・・・・今日からオレも卯月署の捜査一課だ。ついにあこがれの捜査一課だ。
待ちながかった。刑事にあこがれて警察官になったのに、交通巡査から派出所勤務。
でもとうとう出番が来たのだ。
・・・・よーし。ばんばん殺人事件を解決してやるぞぉぉぉぉ
けんたろうは、ばーんと捜査一課のドアを足で蹴った。そしてふらりと中に入る。
・・・・えっへっへ。敏腕捜査官、けんたろう様のお出ましだ〜〜い。
だが、入った途端にけんたろうは目を丸くした。
いきなり捜査一課の室内にいた全員がこっちを振り向きざま、大爆笑をはじめたのだ。
「あっはっは。なによお、そのかっこお!!(爆)」
「ぎゃははは、ばっかみたい。」
・・・・え? 女だらけ?
捜査一課の室内には女性しかいなかった。見渡す限り、女・女・女・・・・・・
「あんたあ、なんか勘違いしてるのと違う・・・??」
そう声をかけられて、けんたろうは改めて自分の格好を上から下までしげしげと眺めてみた。
・・・え? え? どこがおかしいんだよお? ばっちり決まってる刑事ルックじゃん?
よれよれの皺だらけの長いコート。前を無造作にあけっぴろげ、髪はもじゃもじゃ。
「あんたねえ。それ刑事コロンボのつもり?・・・あっははは。ばっかみたい、こいつ。」
またまた室内に爆笑が巻き起こる。ここにいるのはみんな女性刑事なのだろうか?
やはり修羅場をくぐり抜けてきた女性刑事たち・・・気性が荒いようだ。
いきなり冷やかされてけんたろうは額に汗を浮かべた。もともとけんたろうは汗っかきなの
だ。それなのにまだ残暑厳しい9月っていうのにこの長いコート。おまけにほとんど洗ってな
いコートが余計に暑さを醸し出す。
けんたろうはタオルを出して額の汗をふいた。
「だっせ〜〜。こいつう、暑いならコート脱げばいいジャン。」
「いや・・・これは俺の憧れの服装なんだ。」
けんたろうがそういうと、またもかん高い爆笑が室内に渦巻いた。
「静かにしなさいっっ!!」
突然、ピンと張った女性の声で一喝され、室内はしんと静まり返った。
「課長・・・それ駄洒落ですか?」
少し冷やかし気味に、だれかがそうぼそっと言った。
途端にくすくすと笑い声が起こる。
「と、ともかく新入りはこっちへ来なさい。」
課長と呼ばれた女に言われてけんたろうはその机の横に立った。
「私は・・・・三月静香。ここの課長よ。」
「は、はじめまして。けんたろうです。」
「なにか、よわっちい名前ね。」
・・・・・・うるさーーーい。余計なお世話だーーーい。
「あなた。ここが泣く子も恐れる女だけの捜査一課、卯月署の戦う女集団、通称
アマゾネス署だっていうことしってたの?」
・・・・・女だけの捜査一課?? ええっ? そ、そうなのか???
「ほれ、新入り。挨拶しな。」
取り巻かれた女刑事の誰かからそう言われて、けんたろうの肩がびくっと震えた。
しかたなく、おずおずと頭を下げて挨拶した。
「は、はじめまして。今日からここで働く・・・・け、けんたろうです。」
「なに、びびってんの? ほらほら しっかりしな。」
まわりからどっと笑い声が上がった。
・・・・ひええええ。こんな中で働くのか? た、たいへんだあ。
そんななか三月課長は、一人冷静に周りを見回して言った。
「あら? 麗子は?」
「もうすぐ来るわよ。社長令嬢なんだからいつだって社長出勤よ。」
「ほーら、噂をすればなんとやら。お嬢様刑事のご出勤よ。」
そういってみんなは窓に群がった。
だれか遅刻している者がいるようだ。社長出勤だなんて刑事にそんなものが許されるのか?
・・・・・しっかし社長令嬢?? なんだって社長令嬢が刑事なんか???
けげんに思ったけんたろうも窓に群がって下を見た。
げげ、ベ、ベンツ???
黒塗りのベンツがいきなり署の前に横付けになる。
黒い服を着た男がうやうやしくドアを開けると、ベンツからはすごい金髪の女がすっくと
降り立った。
けんたろうは関心がないから知らないが、どこかの有名ブランドなのだろう?いかにも高級
そうなドレスを身にまとい、見事にカールしたブロンドヘアをさっとかき上げると、首を振っ
て、すっくと地面に立った。
・・・・か、かっこいい。なんか銀座ジュエリーマキのCMみたいだ(爆)
麗子と呼ばれた女は3階の窓からぞろぞろと見下ろしている同僚達の姿をさっと流し目で
見上げた。
途端に、けんたろうと眼と眼があった。
金髪の女は、じっとけんたろうを見つめ、それからふんとつまらなそうにそっぽを向いた。
肩をちょんちょんとつつかれて、振り返ると三月静香課長がいた。
「いいわね。今日からあの子があなたの相棒よ。新藤麗子。天からのお嬢様刑事
(おじょうさまデカ)だから、気をつけるのよ。いいわね。」
そう言って、静香課長はキッとけんたろうをにらんだ。
・・・・・ええっ! あの女が俺の相棒なのかぁ???
あらためて窓の下を見た。麗子というその女は荷物を黒服の男に持たせて、背筋をぴんと
伸ばして、署にむかって歩きだした。
「あっはっは。しっかりね。坊や。」
また周りの誰かがけんたろうを茶化す。どっと笑い声が上がった。
けんたろうは、署に入ってくるその麗子という女をただじっと見下ろしていた。
でました。お嬢様刑事、麗子ぉ!! 詳しくは、次回を待て! |
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