カードキャプチャーさくら〜黒衣の花嫁〜
第9話     【月下の死闘】



【月下の死闘】
 
 静寂の中、クロウ・リード邸の庭にある池の縁に李芙蓉は佇んでいた。

「月がきれいね」

 水面に映る月を見て、そして空の月に向かってつぶやく。
 亡き夫との間に授かった小龍は、芙蓉の胸で寝ていた。

「こんな夜に戦いは無粋だと思いませんか、セイレーンのミユウ?」

 闇から滲み出るように、ミユウが現れた。

「致し方ありませんわ、わたしはご主人様の花嫁であるさくらさんを奪い返しに来たのですから」

 芙蓉は首を何度も横に振った。

「さくらちゃんがリチャード・王を好きならばともかく、冥界の王ハーデスがペルセポネを拐(かど)わかすみたいにするなんて、リチャード・王は余程自信がないのかしら?」

 月明かりに芙蓉の皮肉な笑いが浮かぶ。

「緑龍に勝つための戦略といってほしいですね」

「戦略ね。まあ、どちらでもいいわ。さくらちゃんはリチャード・王が嫌いなんだから」

 ミユウが苦い物を飲んだような表情になった。
 ミユウとて心の奥底では、さくらの心の傷が理解できる。
 しかし、それはメイドとして思ってはならぬことだった。

「私は、ご主人様のメイドとして、さくらさんを奪い返します」

「私は、未来の義妹のために、断じて奪われるわけにはいかないわ」

「義妹?」

 ミユウが訝しそうに聞き質した。

「さくらちゃんが云ってくれたの、わたしのことをお義姉さんと呼びたいって」

 2人とも、これ以上何を云っても埒があかないことを知っていた。

「時間をかけるわけにもいきませんので」

 ミユウが自分の長い髪を1本抜くと、髪は鋼線のように硬くなった。
 月明かりに、それはキラリと光った。

「気を、いえ、魔力を髪に込めたのね」

 気功術により、自身の身体の一部を硬くする術は中国武術にある。
 気の代わりに魔力を込めたのだと、芙蓉は察した。

「李芙蓉。この戦いは、あなたの負けです」

「そうお?」

「理由は2つ。人間が魔女に勝てると思うのですか? それと、この場に小龍君がいることです」

 母親の常として、たとえフェイントとわかっていても小龍に攻撃が行けば反応するだろう。
 そこに隙ができる。
 ミユウが一歩にじり寄り、芙蓉は小龍を背中に負ぶる。

「手間隙かける気はありません。一気に行きます」

 サーベルのように髪を突くミユウ。
 が、芙蓉はそれをかわした。

「やりますね」

 ミユウは連続で突き入れたが、芙蓉はそれを悉くかわす。
 そして硬くなった髪を手に掴もうとした時、

<えっ?>

 髪は突然柔らかくなってダラリと下がった。
 一瞬後、髪は再び硬くなり、手首を切り返したミユウの攻撃が襲った。
 芙蓉は今までとは違う大きな動作でかわした。

「ふう、危なかったわ」

「どうして、わたしの攻撃がかわされるのでしょう?」

 お互い、大きく間合いを取って対峙した。

「髪の毛の先に魔力を感じるのよ。わたしは、あなたを見るのではなくて、その魔力を感じ取りながらかわせばいいの」

「なるほど」

「でも、さっきの攻撃は驚いたわ。魔力の加減で、髪を硬くしたり柔らかくしたりできるんだ。うん? ということは・・・」

 云いながら嫌な予感が芙蓉を襲った。
 魔力でも気でも、細かくコントロールするのは難しい。
 むしろ、魔力を一斉に放出する方が易しい。
 はたせるかな、ミユウの魔力が増幅した。
 感じるより身体が反応して、ミユウの攻撃をかわしていた。
 
<攻撃? この間合いで?>

 反応の後に思考がやって来た。
 芙蓉は落ち着いて魔力を感じようとする。
 感じる、5本分の髪の長さの魔力を。
 髪を結んだのだろう。
 それからのミユウの攻撃は変幻自在だった。
 ある時は槍のように、またある時は鞭のような攻撃が飛んできた。

「うふふ、捕まえました」

 今、ミユウの髪は芙蓉の左手首に絡まっている。

「剣[ソード]!」

 叫んだ芙蓉が指に挟んだカードでミユウの髪を切った。

「なぜ?」

 髪が切られたのも驚いたが、芙蓉の右手に握られているのが、さくらカードであったのが一番の驚きだった。

「さくらちゃんから、無断で借りてきたの」

 はにかみながら芙蓉が云った。
 無断借用ということが、芙蓉には面映いことらしい。

「わたしが聞きたいのは、そんなことではありません」

 なぜ、さくらカードが使えるのかが、わからなかった。

「もちろん、わたしに使えるはずがないわ、100%はね。でも、まあ30%くらいなら、使えるかなって思ったの」

 それで、先ほどはカードが実体化せず、カードで切ったのかとミユウは思った。

「わたしの魔力では、こんなもんでしょう。しかし・・・」

 手品師のような手際でカードを切る。

「さくらカード19枚、すべてがあるわ」

 その時、ミユウは思い出していた、ここがクロウ・リードの屋敷であったことを。
 僅かとはいえ、ここにはクロウの魔力が残っていた。
 芙蓉が手裏剣を投げるようにバックハンドで腕を振った。
 ミユウは地を転がってかわす。
 さくらカードがミユウのいた地点に3枚刺刺さっていた。
 今度はミユウが髪を突く。
 右にかわすと思ったが、芙蓉は左にかわしたので虚を突かれた。
 右には充分な空間があり、左には屋敷の石壁があったからだ。

「はっ!」

 芙蓉は垂直の壁面を走っていた。
 そして充分な高さまで駆け上がると、壁を蹴った。

「飛檐走壁! しかも、小龍君を負ぶって走るなんて」

 月夜の空に、両腕両膝で急所を隠した芙蓉が宙高く飛んだ。

「くっ」

 苦し紛れにミユウが髪を放つ。
 芙蓉は全身の五感でミユウの攻撃を感じ取った。

「火[ファイアリー]」

 火のカードが髪とぶつかり、発火した炎は一直線に走った。
 炎に目が眩んでミユウに一瞬の隙ができた。
 そのまま、上からミユウの懐に飛び込むと、芙蓉は右手首に左手を添え、右掌底を突いた。
 身体の中が破裂したような衝撃をミユウは感じた。そして、よろよろと後ずさりして池に落ちた。

「はあ、はあ、はあ、手ごたえ十分」

 芙蓉は両膝をついた。

「え?」

 水の中から歌が聞こえた。
 いや、正しくは直接頭の中に歌が聞こえてきたのだ。
 セイレーンの歌声には魔力があった。
 芙蓉は自分の意思には係わりなく立たされ、池へと引き寄せられて行く。

<しまった。セイレーンは歌声で船乗りを操り、船を沈めるのだったわ。そして、セイレーンの真の姿は人魚だったはず>

 池の深さは1メートル強。
 人魚が泳ぐには充分な深さだった。
 必死になって抵抗するが、身体はゆっくりと池へと近づいて行く。

「樹[ウッド]」

 側にあった木に樹のカードを投げた。
 木の枝が小龍に絡まる。

「小龍をお願い」

 枝に抱かれた小龍を見た芙蓉は、池に引きずりこまれた。
 ミユウの足は、おとぎ話に出てくる人魚のそれだった。
 スカートから尾ひれが覗いている。
 おそらく、腰から下が、そうなのだろう。
 ミユウが迫ってきた。
 芙蓉は魔力を込めてカードを投げつける。
 が、水中では格段にスピードが落ちた。
 そしてなにより、ミユウは魚のように速かった。
 芙蓉の攻撃は、悉く外れた。

「あっ!」

 背後を取られた芙蓉は羽交い絞めにされた。

<溺死させるつもりね>

<念には念を入れさせてもらいます>

 そのままミユウは錐もみをし、泳いだ。
 芙蓉の平衡感覚を奪って、攻撃の機会を封じるつもりだった。
 息も続きそうにもない。

<さすがに、これはダメかも・・・>
 
 そう思った矢先、掴まれていた感覚がなくなった。

<何?>

 浮いていく最中芙蓉は、ミユウが口から血を吐いていたのを見た。
 先程の打撃が効いていたのだ。

「ぜい、ぜい、ぜい・・・」

 芙蓉は、水面から顔を出して息を整える。
 再び、ガクンと引きずり込まれる。

<今度は、そうはいきませんよ。もう二度と離しません>

 ミユウの声が頭の中に聞こえた。
 芙蓉は手元に残ったカードの中から、あるカードを取り出して魔法を発した。

<消[イレイズ]>

 ミユウの手から芙蓉がいなくなった。

<何ですって? 消[イレイズ]の力で自分を消すですって?>

 魔法とは、元来自分にかけるものではない。
 がしかし、かけていけないものでもない。
 自己催眠術というものもある。
 逆転の発想というべきか。

<でも、遠くへは行けないはず>

 李芙蓉の魔力では、さくらカードを完璧に使いこなすことはできないはずなのだ。
 ミユウが水面から顔を出すと、芙蓉が両手をついていた。

「はあ、はあ、はあ・・・」

 芙蓉は息を整えていた。
 傍には小龍がいる。

「驚きました、まさか自分に消[イレイズ]をかけるとは」

「やはり、わたし一人じゃ無理ね・・・」

「負けを認めますか」

 ミユウの身体が人間ならば膝の辺りまで浮かんだ。
 長い髪のから雫が滴り落ちている。

「さくらちゃんは渡さないわ」

「あくまでも、逆らうんですね」

 ミユウの右の手の平が上に向いた。
 そこには光の弾が輝いていた。
 リチャード・王が小狼に、小狼がクロウの杖でリチャード・王に放った魔弾と同じだった。

「はっ!」

 かけ声とともに魔弾が走る。
 芙蓉に当たる寸前、光弾が散った。

「え?」

 盾[シールド]のカードを前にしてさくらカードたちが芙蓉と小龍を囲むように飛んでいた。

「さくらカードが、さくらさん以外の者を守るだなんて・・・」

 眼の前に起きていることが信じられなかった。

「わたしを助けることが主を守ることになると、カードたちは知っているのよ」

「そ、そんな」

「リチャード・王も嫌われたものねえ」

 芙蓉の一言がミユウの心に突き刺さった。

「だからご主人様には、黒き龍には、さくらさんが必要なのに・・・」

 ミユウは、自分の主のために泣いた。

「策士策に溺れる、ね。リチャード・王が優しく接していれば、さくらちゃんも心を開いたかもしれないのに」

 心優しきさくらなら、あり得ない話ではなかった。

「小龍、力を貸してちょうだい。今こそ、さくらちゃんと小狼に報いる時よ」

 立ち上がった芙蓉の手の中に、さくらカードたちが集まる。
 そして、剣[ソード]、樹[ウッド]、火[ファイアリー]、水[ウォーティー]、地[アーシー]の5枚を地面に刺して正五角形を型作った。

「在天紫微大帝、在地泰山府君、金木水火土、七曜九星、急々如律令・・・」

 その時ミユウが見たものは、円の中に正五角形があり、正五角形の中に五芒星がある魔方陣だった。

「さくらカードで、陰陽五行を表わす?」

 金とは金属のことで、黄金のことではない。
 はるかな昔、鉄は黄金より大切な金属だった。
 武器、農耕器具として生産性を飛躍的に伸ばしたのがヒッタイト帝国であったし、秦が中華統一を行えたのも鉄のおかげであった。
 剣を金に置き換えることは決して不自然ではない。
 金属に水滴がつく現象がある。
 それを考えれば『金生水』を表せる。
 また、剣で木を削ることは、『金剋木』を表す。
 さすがはクロウ・リードというべきだろう。
 カードで陰陽五行は完璧に表現できる。
 そして芙蓉はさらに、光[ライト]、闇[ダーク]、風[ウインデイ]、鏡[ミラー]、灯[グロウ]、花[フラワー]、消[イレイズ]、影[シャドー]の八枚を魔方陣の前にばら撒いた。

「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、前、行」

 芙蓉の早九字に地面から8つの大きな石が盛り上がってきた。
 その石に八枚のカードたちがそれぞれの石に舞い降りた。

「これは?」

「奇門遁甲、八陣図!」

 八つの石の後ろから芙蓉が云った。

「別名、八門金鎖の陣。その昔、諸葛亮孔明が呉の陸遜を死地に誘い込んだという、絶対無比の結界」

 八門とは休、生、傷、杜、景、死、驚、開の八門からなる。
 生門、景門、開門に入ると生き残れるが、傷門、休門、驚門に入ると傷つく、そして杜門、死門に入ると滅亡するという。

「セイレーンのミユウ、退きなさい。それとも、門に入って来るつもりかしら?」

 ミユウの顔に驚きの色が浮かんでいた。

「李芙蓉、ここまでの魔法使いとは思わなかったわ」

「わたしだけだったなら、これだけの八陣図は敷けなかったわ。小龍のおかげよ」

 魔方陣から魔力の供給を受けている八陣図。
 小龍こと緑龍の魔力が放出していた。
 ミユウとて並みの魔女ではない。
 眼の前に展開している魔法の力の程を知った。

「ご主人様なら、門を見極められたのに・・・」

 悔しさが滲み出た。
 ミユウの頬近くを翔[フライ]のカードが掠めて行った。

「退きなさい!!」

 凛とした声の後に、ミユウの歌声が流れた。

「聴け、我が歌を。闇に生まれ闇に住む者よ。来たりて我に応じよ・・・」

 水面に六芒星の魔方陣が光現れた。

「魔獣(ビースト)を召喚するつもりね」

 お互い引くに引けない瀬戸際まで来てしまった。

「ええっ、なんでぇ?!」

 召喚者のミユウが甲高い声を上げたのも無理はなかった。

「子供じゃないの」

 芙蓉も驚いた。
 両者の驚きを尻目に、小さなユニコーンが嬉しそうに浅瀬にいた。
 ミユウも浅瀬に移ると、小さなユニコーンが擦り寄った。
 ミユウは愛しそうに撫でていたが、

「ごめんなさい!」

 突き放すように両手でユニコーンを押し出した。
 ユニコーンは八陣に向かって走った。

「カードたち、戻って」

 芙蓉が叫ぶと、さくらカードは芙蓉の手の中に戻った。
 ユニコーンは、突然、魔力のこもった石がなくなったことに戸惑っているのだろう。
 その場で何度もくるくる回っていた。

「ミユウ。あなた、ユニコーンを死門に入れようとしましたね。まだ子供なのに・・・」

「ははあ、あれが死門だったのですか」

 腹をくくったのか、ミユウの言葉はどこか嘯いたような響きがあった。

「許せない」

 今はっきりと、芙蓉はミユウに怒りを抱いた。
 子を持つ母親として、ミユウの取った行いは許しがたかった。

「許さない。絶対に許さないわ、セイレーンのミユウ」

 繰り返す言葉が、芙蓉の怒りを物語っている。
 小さなユニコーンの未来を切り開くために戦えというのならば、まだわかる。
 しかし、ミユウは文字通り捨て駒に使った。

「小龍、七星剣を借りるわよ」

 いつの間にか、芙蓉の右手には七星剣が握られている。

「緑龍の正当後継者でない貴女に、七星剣が使えるはずがないじゃないですか」

 嘲笑するミユウ。

「確かに。しかし、私も緑龍の末裔。呼べる星は、ひとつ。星ひとつの七星剣の威力を知るがいいわ」

 芙蓉は七星剣を大上段に構えた。

「ノウ マク サン マン ダ ナ ラ ノウ エイ ケイ キ ・・・ ノウ マク サン マン ダ ハ イ ガ イ ダ イ カ イ ラ イ ボウ ラ」

 芙蓉は召北斗印言を唱え始めた。
 何度も唱えると、星がひとつ刀身に輝いた。
 そして、芙蓉は走った。
 ミユウも浅瀬から離れて、矢を番えた。
 矢は、ケルベロスたちを封じ込めた、あのシルバーアローだ。
 ミユウが続けざまに矢を3本放つ。
 芙蓉は、それを走りながら七星剣で払う。
 ミユウは、水際で仕留める狙いがあった。
 おそらく、芙蓉は水際で大きく跳ぶであろう。
 滞空時間が大きいほど隙だらけだ。
 また、そのために池の中心部に移ったのだ。
 が、芙蓉はミユウの意表を突いた。

「浮歩!」

 ミユウが見たのは、水面を走る芙蓉だった。
 慌てて4本目の矢を番える。

「風[ウィンディ]」
 芙蓉は、叫ぶと同時に震脚で踏み込んだ。
 飛沫が風に乗り、目くらましになった。
 ミユウが放った矢は、片膝をついた芙蓉の頭上すれすれを飛んでいった。
 芙蓉は、そのままの姿勢で水面を滑る。
 ミユウの内懐に潜り込むと、逆袈裟に七星剣を振り上げる。
 が、ミユウも渓流魚のように水面から撥ねた。

「跳[ジャンプ]」

 さくらカードを使った芙蓉は、ミユウのさらに上を行く。

「喰らえ、北斗破軍剣!」

 とっさに、ミユウは弓で剣を受けるも、爆風に呑み込まれたかのような衝撃を受けた。
 強かに地面に叩きつけられた。
 芙蓉は水面に下りた。
 小さな池とはいえ、中心から岸まで飛ばされた。
 そのことが、北斗破軍剣の威力を物語っていた。

「敵を打ち破る破軍星こそは、北斗七星最強の星。ミユウ、私の勝ちね」

 言いながら水面を歩く。

「命はもらったわ」

 胸元に切っ先を突きつける。

「そう・・・でしょうか?」

 喘ぎながらも、ミユウは答えた。
 芙蓉も脇腹に何かを突きつけられたのを感じた。

「ふん。ユニコーンの角が刺さる前に、貴女の心臓が串刺しになるわ」

「小龍君は、いいんですか」

「さくらちゃんと小狼がいる」

<私と同類だ>

 ミユウは、自分の命を引き換えにしてもという芙蓉の中に自分を見た。

「セイレーンのミユウ。一緒に死んであげるわ」

 剣が少し沈む。ミユウは目を瞑った。

「ど、どうして?」

 芙蓉の声に、ミユウは目を開いた。
 ユニコーンが七星剣の下に首を入れていた。

「ミユウの命乞いをしているの?」

 答えるように、ユニコーンは嘶いた。

「ミユウ、退きなさい」

 再度勧告する芙蓉に、

「助ける、というのですか」

 ミユウは言った。

「この子に免じてね。リチャード・王も、さくらちゃんの命乞いを容れてくれたし」

 リチャード・王の名前が出たことで、ミユウの力が抜けた。
 実のところ、リチャード・王はミユウの行動には反対だった。
 それを無視して、ミユウは行動した。
 主の言いつけに逆らったのは初めてだったが、その結果がこの様だった。

「ご主人様・・・」

 ミユウのつぶやきに、芙蓉の顔が曇った。
 ミユウに対する、言い知れぬ感情がこみ上げてきたからだ。

<夫の仇なのに・・・>

 その感情を押し殺して、芙蓉は促した。

「どうなの?」

「李芙蓉、私の負けです。今夜は退きます」

 ミユウの姿が、すっと消えていった。
 芙蓉が小龍を抱きかかえる。 
 完全に危機が去ったのを感じたのか、小龍は芙蓉の腕の中で、すやすやと眠っていた。
 芙蓉の右手には、さくらカードたちがあった。

「カードたち、ありがとう。おかげで殺されずに済んだわ」

 一番上のカード、光がにっこりと笑った気がしたが、きっとそれは錯覚ではないだろう。



 さくらと小狼は、死闘があったことを朝まで知らなかった。



  オールド・ハワイコナさんのSS  『CCさくら〜黒衣の花嫁〜』第9話の掲載ですぅぅぅ。
  
  芙蓉とミユウの息をつかせぬ戦い。w(゜o゜)w オオー!
  これぞ、はわいこなさんの真骨頂〜♪ 
  なりぽしは一気に読んでしまいました〜。   

  次は第10話。
  どんな展開が待っているのでしょう〜。  ((o(^∇^)o))わくわく

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