カードキャプチャーさくら〜黒衣の花嫁〜
第5話    【黒き龍の末裔】 




【黒き龍の末裔】


 ゴゴゴ―――。
 地響きがした。

「ちっ! やはり結界は破られたか・・・」

 地面から1人の男が浮かび上がってきた。

「いえいえ。なかなかの結界でしたよ。もっと簡単に突破できると思ったのですが」

「ふん。事が終わるまで出て来るつもりはなかったくせに」

 心中を当てられて、男が笑った。

「まずは、挨拶代わりの1発を・・・」

 男の手の平に光の球が輝く。

「危ない!!」

 ユエが叫んだ。
 男が光の球を投げつけると、小狼目掛けて一直線に飛んだ。
 ドン、という音とともに小狼が燃えた。

「小狼君!?」

 叫ぶさくらの目に、燃え上がる小狼の姿が映った。

「ああ、ビックリした・・・」

 炎の中にいる小狼がしゃべった。

「小狼君?!」

 燃える小狼が崩れ落ちたその後ろには、小狼が立っていた。

「ドーマンセーマン・・・。式神ですか。道士のあなたが、陰陽師の真似事とは・・・」

 男の視線は、小狼の足元にあった。つられるように全員の目も、小狼の足元に行く。
 そこには、黒く燃え残った人形(ひとかた)があり、五芒星の跡が見て取れた。

「正しい呼び名は清明判紋。遊びで作っておいたのが役立った」

 小狼は式神に身代わりをさせて危機を逃れたのだった。
 セーマンとは、平安時代の陰陽師であった安陪清明から来ていて、護符に書かれた五芒星の事をいう。
 尚、ドーマンとは同じ平安時代の陰陽師であった芦屋道満である。

「遊びで作ったドーマンセーマンで命拾いをするとは、運の強い方です」

 口調からすると、かなり余裕があるようだ。

「あなたが小龍君に蠱毒を仕掛けたの?」

 さくらが男を睨みつけた。

「はい、そうです」

「ひどい!」

「くくく。面白い事をいわれるお嬢さんだ。敵に、ひどいも何もないでしょうに」

 男が笑った。

「小龍君が敵なの?」

 赤子が敵なのかと、さくらはそういう意味で云ったのだが、

「李家所縁(ゆかり)の者は、全て我が敵です」

 男は、あっさりと云った。

「おまえは何者だ?」

「これはこれは。わたしとしたことが、ご挨拶がまだでしたね」

 小狼の問いに、男が恐縮したように云った。

「わたしはリチャード・王(ウォン)といいます。黒き龍の末裔です」

 太古の昔、緑龍と北斗の座をめぐって争ったという黒き龍。李家は緑龍の末裔であった。
 その二匹の龍が、再び対峙した。

「ロンドンで義兄上を殺したのは、おまえの仕業だな」

「あの男に付きまとわれては煩わしかったので。宣戦布告の意味合いもありましたが」

「小龍を狙った訳は?」

「策略の眼目でした。李小狼の魔力を赤子に移させるためです。こちらの読み通りに事は運びました。もはやあなたを恐れ
 る事はなくなった」

 リチャード・王は、満足げな笑みを浮かべている。

「李家には、緑龍の正統者である小龍がいる。おまえと小龍では格が違う」

 戦えば、小龍が勝つことを確信していた。

「小龍は、さくらと同じ星の力を有している。今は月の力で守られているが、小龍が力に目覚めた時、おまえを倒しに行くぞ。 その時、おまえは小龍に必ず負ける」

 リチャード・王と小龍の戦いについて小狼は楽観していた。
 やがて小龍は、自分が渡した月の力をも呑み込み、自分も及ばない強さになるだろう。
 小狼の自信の根拠は、ここにあった。

「わたしも、そう思います」

「何?!」

 だが、リチャード・王は何でもないように云った。その様子に、小狼の自信が僅かに揺らいだ。

「ですが、赤子に魔法が使えますか? 呪文を唱えることもできない赤子は相手にしません。問題は今です」

「・・・・・」

 確かに、リチャード・王の云う通りだった。
 小龍は生き残る本能で魔力を使ったのであって、蠱毒を解毒する魔法を使ったのではなかった。

「この赤子はクロウ・リードに比肩する才能の持ち主のようです。おそらく、10歳にして北斗の魔法を使えるようになるでしょ
 う。しかし、それはあくまでも10年後の話です」

 リチャード・王は、小狼を無力化するために小龍を蠱毒で呪詛したのだ。そして、10年の時を稼いだ。

「今や、北斗の魔法を使えるのは、わたしだけです」

「だが、10年後、小龍がおまえを倒しに行くぞ・・・」

 小狼の声は弱かった。敵は最終局面まで読んでいる。

「わたしには、10年後を打破する秘策があります」

 小狼は嫌な予感がした。
 その秘策のために、今仕掛けてきているのだろう。だが、どんな秘策なのか。

「まあ、手の内をさらすのも楽しみがありません。事ここに至っては、すでに勝敗は決しています。後は攻めあるのみ」
 
 敵の目的はわかった。北斗の座を奪還すること。
 リチャード・王は小狼と戦っても勝てないと踏んだのだろう。そのために小龍を襲ったのだ。

「コケにするのも、たいがいにせいや!」

 ケルベロスがリチャード・王の前に進んだ。

「世の中、自分の思い通りに行くと思ったらあかんで」

 眼光鋭く、リチャード・王をケルベロスが睨みつける。

「あなたがクロウカード・・・いや、今はさくらカードの守護獣であるケルベロスですか」

 そしてケルベロスの横にユエも立ちはだかった。

「そしてあなたが、もうひとりの守護者・月(ユエ)ですね」

 ユエを値踏みするかのように、リチャード・王は見つめた。

「このまま、おまえを見逃すわけには、いかんな」

「きょうは、挨拶に伺っただけなのですが」

 リチャード・王は、わざとらしくため息をつく。

「先に人の面殴っといて、何を云うねん」

「その通りだ」

 ユエは矢をつがえる構えを取った。月の力で具現化した弓と矢が手の中にあった。

「どうしました? 射らないのですか?」

 ユエはリチャード・王から湧きあがるオーラを見た。ゆらめくオーラは龍の形をしていた。

「この男、確かに龍の気をもっている」

 矢の先がカタカタと震えた。

「ユエさん?」

「くっ!」

 ユエは矢を放った。しかし、キラっと光り、矢は真二つになって消えた。

「わたしに、月弓は効きませんよ」

 リチャード・王の手には、一振りの剣が握られていた。

「あの枝分かれしたような剣は何ですか?」

 リチャード・王が握っていた剣は、知世が云ったように枝分かれしたように7つの剣先があった。

「長い黒髪が美しいお嬢さん。これがわたしの北斗の剣、七死刀と云います」

「七死刀?」

「まさしく死を司る星、北斗に相応しい剣といえるでしょう」

 口元が緩んだリチャード・王に、知世は背筋が寒くなった。
 知世の洞察力は、リチャード・王の中にある闇を感じていた。

「なら、これはどうや!」

 ケルベロスが口から火を吐いた。

「破っ!」

 七死刀が一閃した。

「ケルベロスの炎も効かないのか」

 リチャード・王はケルベロスの炎も真二つに斬った。

「余興は終わりです」

「余興やと?」

「最初に云ったように、きょうは挨拶に伺っただけです」

 七死刀の剣先のひとつが光った。

「それではこれで、失礼をいたします」

 来た時と同じように、リチャード・王は地面に沈んでいった。

「地龍を操ったんだ」

 リチャード・王が沈んだ地点を見つめながら、小狼は云った。

「小僧ぉ、どないすんねん?!」

 知世にはケルベロスの声が悲鳴のように聞こえた。
 が、小狼に答える術はなかった。


 続く


  オールド・ハワイコナさんのSS  『CCさくら〜黒衣の花嫁〜』第5話の掲載ですぅぅぅ。
  リチャード・王の登場で俄然物語は緊迫ぅぅぅ。


  どうなる次回!!!   (((o(^。^")o)))ワクワク 

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