愛&美雪 越中路の旅 |
4:親不知 子不知
次の日、愛と美雪は富山市を出、富山駅から鈍行列車に乗り込み、次の目的地である朝日町に向かった。
新潟富山県境である親不知 子不知とその周辺の観光地などを回る為である。
この日は2人が富山県を訪れてから、一番の天気に恵まれた。
2人は途中魚津で途中下車し、「魚津埋没林記念館」、「魚津水族館」などを見て回った。
そこで2人がもっとも心を惹かれたのは、魚津水族館の2回のベランダから見た日本海と立山連邦、後立山
連邦の大パノラマである。
「わー、奇麗!私、これを愛に見せたくって、この旅に愛を誘ったんだよ。」
美雪は両手を大きく広げ、清々しそうにこういった。
「うん、これが富山なのね・・・。」
愛は目を潤ませ、静かにこういった。愛は続いてこう呟いた。
「でも海からすぐの所に、こんな高い山があるなんて・・・・。」
そう。愛の言う通り、富山県は海からわずかしか離れていない所に、2000、3000m級の高い山が連なっ
ているのが大きな特徴である。
このため雨や雪が非常に多い不安定な天候の日が多い県であるが、同時にそれは非常に豊かな自然の恵
みを与えてくれ、また蜃気楼などのこの地でしか見られない自然の不思議さを生み出してもくれている。
「でもこの季節だと蜃気楼は見れないね・・・。」
愛は少し残念そうである。美雪はこう呟いた。
「そう言えば、今ダムやなんかが多くなって、川から海に流れる冷たい真水の量が少なくなってるらしいんだ。
蜃気楼が見える回数も減ってきて、しかも昔よりもはっきり見えなくなってるらしいよ。今じゃ望遠鏡で見ない
となかなか見えないって・・・。」
誠に残念である・・・・。
2人は再び列車に乗り込み、朝日町の親知らずに近い小さな駅、「越中宮崎駅」で下車した。
この越中宮崎とは、親不知 子不知の少し富山県寄りにある、日本海に面した小さな漁村である。
この日から2人はここの小さな民宿に2泊泊まる予定である。
この辺になるともう海の後ろはすぐ山、というかんじになってくる。
愛は、
「山が崩れてきたりしないかしら・・・。」
とおののいている。美雪は笑い、
「ハハハ、まさか!」
美雪は駅の前で携帯電話を取り出し、宿に電話をしようとする。しかし携帯の電池が切れている。
「アチャー!『電池充電または交換』、だって・・・・。」
愛は美雪と違い、携帯は持っていない。
仕方なく、駅の公衆電話を使おうとした所、2人の前を自転車に乗った同世代くらいの若い男が通りかかり、
2人に声をかけた。
「なあ御2人さん、東京から来たんが?」
どこかで見たことのあるような顔である。2人は少し警戒しながら、
「はあ?そうですけど・・・?」
と答える。男は続いてこう話し掛けてきた。
「ひょっとして、『民宿白山』に泊まるお客さん?俺迎えに来たんや。ハハハ!」
愛と美雪は唖然とする。
「な、何で知ってるの?」
男は笑っている。
「ハハハ!俺白山の息子なんやちゃ!おかあちゃんが、『そろそろ東京から来るお客さんが来る頃だから迎
えに行ってきてくれ!』なんて言うから、迎えに来たんだ。そしたらあんたらがいるから、声をかけてみたんや
けれど、案の定ほうやったとはな・・・。ハハハ!こりゃ傑作や!」
男は「水島龍司」と名乗った。
美雪は龍司に尋ねる。
「でもどうして今くらいの時間だって分かったの?」
「ハハハ!なーにいっとるの!お客さん予約の電話したとき、うちのおかあちゃんに、『5時くらいに富山から
の電車で行くから。』ていうとったやろう?もう忘れ取るん?まあいこか・・。」
龍司は2人を自らの自宅でもある「民宿白山」に案内した。
その民宿白山は、国道8号線から少し宮崎集落に入り込んだ所にある小さな民宿である。
非常に家庭的そうな女将が、2人を笑顔で出迎えてくれた。
「まあまあ、遠い所からようこそ!龍司、お客さんを部屋に案内してえな!くれぐれも変な気起こすんやないで
!」
「ハハハ!なに言いうとるが・・・。」
龍司は赤面しながら、愛と美雪を部屋に案内した。
愛と美雪の2人は、どうもこの龍司という人物が気になって来ていた。
どうも2人と年も近いらしく、何だか以前何処かでこういう人物に会ったような気がしている。
一時間後くらいに、2人は夕食に呼ばれた。
この日の泊まり客は愛と美雪だけだった。女将は海の幸料理で2人を歓迎してくれた。
ホタルイカの生姜醤油浸け、白えび、ブリ、ソイなどの刺し身、海草サラダなどが食卓に並んでいた。
女将が鍋を持ってやってきた。
「御待たせしました。越中宮崎名物のタラ汁です。スケソウダラの味噌汁ですが、寒いときは暖まりますよ。」
このタラ汁は、スケソウダラをぶつ切りにして鍋で煮て作った味噌汁である。
この地方の漁師が船で漁に出かけた際、昼食の弁当のおかずとして作ったのが始まりといわれている。
他にも日本海側にはこのタラ汁が名物になっている地方が多い。
ちなみに山形県あたりではマダラを使って鍋で味噌味で長時間煮込む「タラ鍋(タラのドンガラ汁とも言う)」、
新潟より西はスケソウダラを使用して作った味噌汁「タラ汁」が主流である(こちらは余り時間をかけない)。
マダラを使った方は非常に油っぽいが、スケソウダラの方は非常にあっさりした味であるのが特徴である。
「新鮮でいい味ですね。」
と美雪。愛はホタルイカがお気に入りらしい。
「やっぱりホタルイカっておいしい・・・。」
2人とも富山湾の海の幸が相当気に入っているらしい。
女将は2人に尋ねる。
「失礼ですがお2人さん、高校出られたばかり位がですかな?」
愛がそれに答えた。
「・・・まあ、そうですけれど。」
美雪がそれに続く。
「私達高校の時からの親友同士なんです。それで来月からまた同じ大学に通うんです。」
女将はこういった。
「そう言えばうちの倅の龍司も4月から東京の大学に通うんです。龍司は一年浪人してますけどな。失礼でな
ければ、どちらの大学行くか教えてもらえませんやろか?」
「卯月大ですけれど・・・?」
美雪がそう答えると女将はビックリした。
「えっ!うちの龍司と同じやないですか!」
愛と美雪は顔を見合わせ、びっくりする。
「えーっ!まさか!」
奥から龍司が出てきた。
「本当だよ。お客さん4月から俺と同級生かぁ・・・!偶然だなあ、ハハハ・・・。」
女将が龍司を制してこういった。
「龍司、そやからって変な気起こしたら承知せんで!」
愛と美雪はくすくす笑っている。龍司は赤面し、
「おかあちゃん、若い女のこの客が来るといっつもこの調子やなあ!ハハハ・・・!」
と大きな声でいった。漁村生まれらしい元気な男である。
部屋に戻り、愛と美雪の2人は花札を楽しんでいた。
愛は美雪にボソッと話しかけた。
「ねえ美雪ちゃん、何だかあの龍司って言う人、どこかで見たことあるような気がする・・・。」
美雪も同感らしい。
「うん、私もさっきから気になってたんだ・・。う〜ん・・・・。何だかあの人を思い出すかな・・・・?」
「あの人って・・・、あっ!やっぱり?けんたろう先輩?」
「そうだ、あの人けんたろう先輩に似てるんだよ!あのサバサバしたとことか、豪快そうな感じとか・・・。
ハハハ!『富山のけんたろう』て感じかも!」
それを聞いて、愛の顔が少し曇った。
「けんたろう先輩、か・・・。」
美雪は愛に謝る。
「・・・、ご、ごめん、嫌なこと思い出させちゃったね・・・。」
愛は首を横に振り、
「ううん、いいの・・・。」
とだけ言った。
次の日、朝食の時に宿の女将が2人にこういった。
「御二人さん、今日はどうするがですか?」
美雪が答える。
「まあ、親不知とか見てこようかな?なんて思ってますが・・・。」
宿の女将は言う。
「それなら、自転車お貸ししますからサイクリングであちこち見て回られたらいかがですか?この辺は交通の
便がようないですのでねえ。うちの龍司が自転車で糸魚川の親戚の所にいくで、案内してもろうたらいかがで
すかな?」
ちなみにその女将の糸魚川の親戚は自転車屋で、この家はその関係で自転車がごまんとあるらしい。
結局愛と美雪はその言葉に従い、龍司の案内で新潟県の糸魚川までサイクリングし、、途中の観光地、史
跡などを見て回ることとなった。
一向は宮崎自然博物館(野外博物館。宮崎城跡、宮崎鹿島などがある)など、周辺の観光地を探りながら
、北陸最大の難所、親不知 子不知を自転車で通り抜けることとなった。
「よろしく!」
この日も天気はよく、空は晴れ渡っているが、幾分か風は強い。
宿の前で、自転車に乗った龍司が2人に挨拶した。
「ええ、よろしく・・。」
愛と美雪は何だかぎこちない。龍司は笑ってこういった。
「ハハハ、何もそんなに遠慮することなんかないて。俺達4月から同級生や。俺のことも『龍司』でいいで。」
3人は出発した。
道は途中までは真っ平であるが、市振を過ぎたあたりから急に坂が多くなり、海と道路の高度差も出、険し
さを増した。さすが東日本と西日本を分ける難所、といった雰囲気がしてきた。
愛の自転車のスピードがだんだん遅くなる。龍司は馴れたものですいすいと自転車をこぎ、坂を登って行く。
元陸上部の美雪はさすがなものでそれに何とか付いていく。愛はどうもこういうのは苦手のようだ。
新潟県と富山県を分ける小さな川、「境川」を渡ると、そこは新潟県青海町である。
「ハア、ハア・・・。」
一向は愛の為、少し歩調を遅らせる。美雪が立ち止まり、愛に声を掛ける。
「愛!しっかり!」
龍司は2人に休息を取らせる。
「疲れたか?少し休もか。」
そんなことを繰り返しながら、一行は親不知の展望台に何とかたどり着いた。
親不知 子不知。それは北アルプスの標高2000、3000mクラスの高い山々が長野県の松本市あたりか
らずっと切れることなく続き、そのまま日本海になだれ込んでいる海岸線を言う。その険阻さは、まさに北陸
道、いや日本海側最大の難所、といっていいだろう。昔の人々はここを越えるのはとても容易なことではなく、
ここを越えるときは親は子を、子は親を省みることもままならなかったといわれている。だからここを境とする新
潟県、富山県はとても隣接県とは思えぬほど方言、文化、歴史などがまるで違う。ここは今も尚、日本海側だ
けの話だが東日本と西日本を分ける境界線である。
また蛇足だが、ここでは昔源平合戦で滅んだ平家一門のある女性が、源氏の追手から逃れる為にここを通
り、途中自らの子供が波にさらわれたという伝説もある。
「フーッ!疲れた・・・。」
愛は汗を拭い、呟いた。相当疲れたようである。
「ハハハ、愛、でもよくここまで頑張ったね。」
美雪が愛を元気付けようと声をかける。
美雪は続いて龍司に話しかけた。
「龍司くん、随分練れた感じだったね。自転車好きなんだ?」
龍司は水平線を見ながら答える。
「ああ、俺子供の頃から自転車乗るの好きでしょうがなかったんや。車なんかとちがって自分の力で走ってる
ような感じがするでな。体に当たる風も気持ちいいし止められんよ。大学入ったら競輪を始めようと思うんや。
競輪選手になるんが今の俺の夢や。」
美雪は、
「夢があっていいね・・。」
と龍司を見て呟いた。
愛は美雪に尋ねる。
「美雪ちゃんはまた陸上部に入るの?」
「うん、多分ね・・・。」
美雪は呟くように答える。
展望台の手前は大きなカーブになっている。その反対側に遊歩道が見える。そこから親不知の核深部に降
りられるのだが、途中長い鉄梯子で崖を降りなければならない。
龍司は遊歩道を指差しこういった。
「なぁ、下に降りてみよか?」
愛は顔色を変え、
「え〜っ!?こわ〜い!」
と後ずさりした。美雪はそんな愛を見て笑い、
「ハハハ、私は行くよ。せっかく来たんだもの。愛はここで1人で待ってたら?」
といった。おてんば少女である彼女らしい台詞である。
「ハハハ・・・、まあそいなら美雪ちゃん、行こか?」
龍司は美雪を連れ、遊歩道に向かった。
愛は何だか心細くなり、
「待って!やっぱり私も行く!」
と叫び、2人の後を追いかけた。
美雪はきょとんとし、
「どうしたんだよ?あんなに怖がってたのに。」
と愛に尋ねる。愛はぎこちなさそうに、
「だってぇ、心細いんだも〜ん!」
という。龍司と美雪はそれを聞いて高笑いした。
ともあれ、一向は親知らずの核深部へと続く遊歩道を歩き始めた。
遊歩道は狭く、まるで山歩きをしているようである。その下はすっぱりと切れていて、ほぼ垂直の崖になって
いる。
「これじゃ海に来てるのか山に来てるのか分からないね・・・。」
愛はぼやいた。
「本当だね。両方って言うことでどう?」
と美雪。龍司は2人に心配そうに、
「すべるでな、気を付けてな。」
と声をかけた。
3人はまもなく、親不知の核深部に降りていく鉄梯子の前に来た。
「こ、恐い・・・。」
愛は足をすくめる。まず龍司が降りはじめる。
「いいか、余り下を見んようにな。慎重に降りるんやで。」
龍司は馴れた手つきで梯子を居り、下に降り立った。
「次は私ね。」
次に居り始めたのは美雪である。
おてんばな彼女であるが、さすがに少々おっかなビックリした様子である。
「ふ〜っ!何とか降りれた・・・。ハハハ。」
さあ残るは愛である。
「愛〜!気を付けて!」
下から美雪が大声で声をかける。
愛は下の龍司と美雪を見て固唾を飲む。
「なんて高さなんだろう・・・。恐い・・・。」
愛は足を竦ませ、なかなか梯子に足をかけようとしない。そんな愛に下から龍司が、
「愛ちゃん、大丈夫!降りちまえばたいしたことないで!」
と愛に向かって右手の親指を立て、勇気付けようとする。愛は何だか少しだけ安心したようになり、
「私も頑張らないと・・・。」
と梯子を恐る恐る下り始めた。
鉄梯子を恐る恐る、少しずつ降りる愛。
心臓が止まりそうなくらい恐かったが、何とか無事に下まで降りられた。
愛は足がまだがくがく震えている。
「愛、頑張ったね!」
美雪は愛の肩をポン!と叩く。龍司は2人に、
「さあ、こっちやで。」
と声をかけ、親不知の核深部に向かって歩き始めた。美雪は軽い足取りで付いていこうとするが、愛は足
の震えが止まらないせいか、歩き始めてすぐに、
「キャッ!」
という悲鳴と共に転んでしまった。
「大丈夫け?」
龍司が駆け寄る。美雪は呆れ顔で、
「愛ったら、相変わらず良く転ぶね・・。」
とぼやく。少し膨れる愛に、龍司が手を差し伸べる。
「ほれ、これにつかまられ・・。」
愛は最初きょとんとするが、同時に懐かしい思い出が頭の中を過ぎった。
「けんたろう先輩・・・。」
愛の思い出とは、あの高校時代ずっと好きだった1個上の上級生、けんたろうとの思い出である。
愛は校庭で転んだ時、けんたろうに声をかけられたことがる。
「おい、大丈夫か?」
愛はそれ以前からけんたろうに恋していたが、なかなか話し掛けることも出来ず、校庭の大きな木の影から
毎日けんたろうをうっとり見つめるだけだった。
そんなある日彼女はいつもの如く憧れのけんたろうを見ている所をけんたろう本人に見つかってしまい、脱
兎の如く逃げ出そうとした。しかし彼女はすぐに転んでしまった。
そんな愛に、けんたろうは声をかけた。
「お、おい、大丈夫か?」
この時愛は、初恋の人、けんたろうと始めて言葉をかわしたである。
愛は赤くなっている。龍司は、
「どうしたんや?」
と不思議がっている。愛はふっと我に返り、
「あ・・。ごめんなさい・・・。」
と龍司の手を取り、起き上がった。
「変な子やな・・・。」
龍司はふとそう思いながら、2人を親不知の核深部へと案内した。
この日は空は晴れ渡っているが、風は結構強く、波も高い。このあたりは海岸の崖の真下はテトラポットが
入っているが、そこに波が次々押し寄せてはドーン!という凄い音と共に砕け散っている。
「これが日本海の荒波か・・。」
愛と美雪は心の中でそう思った。時折波しぶきが2人の体に飛び散る。
「見てみ、この洞穴みたいな所が親不知の核深部や。」
龍司が指差す所に、崖の岩肌に大きく侵食したような穴がある。そここそ親不知の中心部である。
「わー!これが親不知か・・・。」
「感動しちゃった・・・・。」
愛と美雪はその中に入り、感嘆の声を上げる。
龍司は語り始めた。
「昔はこの親不知はトンネルなんかもない難所でな、昔の人たちは海が荒れた時は大波をかいくぐって、こう
いう崖っぷ地の穴から穴へ飛び移るかのようにここを通とったらしい。今も高速道からも、電車からもこの核深
部は見えんくらいや。それだけこの親不知は今も昔も難所なんや。」
美雪がこう言い出した。
「そう言えば前にここにまつわる怪談話があったの思い出しちゃった。ある旅人がここを通る時、巡礼のおば
あさんを海に放り投げた話・・・。」
愛は顔色を変えて叫ぶ。
「キャー!嫌だー!こんな所でそんな話しないでー!」
後ずさりする愛。龍司と美雪は大笑いする。
「ハハハ!愛には刺激強すぎたかな?」
と美雪。
一向はまた国道に戻り、糸魚川に向かって自転車をこぎ始めた。
やがて北アルプスより流れ出る暴れ川、姫川を越え、一行は翡翠と伝説の街、新潟県糸魚川市に着いた。
一行は市内の龍司の親戚が経営する自転車屋を訪れた。
「あれ龍司くん、彼女2人も連れてどうしたん?」
龍司の叔母に当たる店の女将が出てきた。一向は唖然とする。
龍司は赤面しながら、
「ハハハ、うちのお客さんや。今日一緒にサイクリングしてるがや。」
と説明した。女将はガハガハ笑い、
「ハハハ!白山の奥さんからちゃんと電話できいとるで、わかっとるわな。冗談や。まあ、上がってそばでも食
っていかれ。作って待とったんや。」
一行はそばを頂き、市内にある古い神社、「天津神社」を訪れた。
天津神社。糸魚川歴史民族資料館の裏にある、非常にひっそりとした神社である。
ここは天皇家の先祖といわれるニニギノミコトを祭神としてるが、同時に古代この地方に根を張ったと言われ
る「安曇族」の女王、奴奈川姫を祭神とする「奴奈川神社」を合祀している。
この「安曇族」、「奴奈川姫」に付いて説明しよう。
弥生時代、古墳時代頃であろうか、この北陸地方が「越の国」といわれていた頃である。其の越の国には
安曇族という豪族が居り、美しく、才女でもある女王奴奈川姫が其の地を支配してたという。
その奴奈川姫の評判は日本全国に及んだらしく、参院の大豪族「出雲族」の王、大国主命(国譲りで知ら
れる)が彼女の元を訪れ、7日7晩かけて口説いて妻にしたという。やがて2人の間には長野県の諏訪神社
の祭神、建御名方命が生まれた。
その後安曇族は朝廷と戦い、信濃国(今の長野県)に敗走してその地に落ち着いたといわれている。
この天津神社は、最初奴奈川姫を祭る「奴奈川神社」が先に創建され、その後大和朝廷の進出で天津神
社が創建されたという。毎年4月10日に大祭があり、それは「けんか祭り」といわれている。
この神社は古代の大和朝廷と地方の豪族達との争いのなごりをうかがわせる、歴史ロマンあふれる神社と
いえる。
参考文献:高速道利用の渓流釣り場集
柿崎I.C〜今庄I.C
東京渓流釣り人倶楽部同人・編
釣り人社
一行は中央にある奴奈川神社に参拝した。
「奴奈川姫って大国主命の奥さんでしょ?縁結びの神様かな?」
と美雪は愛の顔を覗き込んでいった。愛はちょっと恥ずかしそうに、
「うん、そうだといいね・・。」
と答える。
一行は参拝を終え、歴史民族資料館、フォッサマグナミュージアムなどを見た後、帰途に就いた。
「わー!綺麗!」
再び親不知に差し掛かった時、美雪は夕日を見て感嘆の声を上げた。見ると夕日が大空と日本海を赤く染
め、水平線のかなたに沈もうとしている。
「いつ見てもええもんや。東京じゃあこんな綺麗な景色は見えんやろうな・・・。」
呟く龍司。彼も相当この親不知の夕日が好きなのだろう。
その夜。愛と美雪は共に風呂で汗を流した。
「ねえ愛、神社でなんてお祈りしたの?」
美雪は髪を洗いながら愛に尋ねた。
「え?・・・『大学でも素敵な人と巡り合えますように・・・』ってお祈りしたよ・・。」
「そうか。でも今回いいきっかけつかんだんじゃない?」
美雪は愛をからかうように言う。愛は、
「もう!美雪ちゃんの意地悪!」
と叫ぼうとする。
その時2人は、窓の外に何やら人の気配を感じた。
「ムッ!ひょっとして覗き・・・?」
美雪は窓をガラッと開ける。
するとダーッ!という駆け足がしたが、その人影はどこかに消え去ってしまっていた。
2人が風呂から上がると、何やら茶の間から女将の怒鳴り声が聞こえる。
「龍司!あんたって子は!」
どうやら龍司が何か悪さを仕出かし、女将に怒られてるようである。
愛と美雪は即座にその状況を察知した。
「あ!やっぱり覗いてたな・・!あいつ・・・!」
美雪は心の中で呟いた。
「もう!男って何であんなスケベなんだろう!」
美雪は部屋に戻ると絶叫する。
「嫌だなあ・・。龍司くんのエッチ!」
愛も顔を真っ赤に染めている。
美雪は何故か思い出し笑いをする。
「・・・・。そういう所もあのけんたろう先輩みたい・・・。プッ・・。ハハハ!愛が好きになりそう!」
愛は、
「も〜う!美雪ちゃんったら!・・でも、そうかも・・・。ハハハ!」
部屋からは2人の笑い声が鳴り響いた。
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