愛&美雪 越中路の旅


プロローグ:夜行急行の中で

 

 3月下旬、そろそろ冬から春へと季節が変わる頃である。


 東京の上野駅から、ある日の深夜0時頃石川県の金沢に向けて夜行急行列車が走り出した。

 その中に女性専用車両「レディースカー」というものがある。

 その中のある席に、高校を卒業して間もない若い少女が2人並んで座っていた。


 2人の名前は、それぞれ飯島 美雪、南里 愛という。

 美雪はポニーテールで勝ち気な女の子。愛はロングヘアのおしとやかな女の子。

 この対照的な2人は高校の頃からずっと親友として付き合ってきた。 

 2人ともつい最近高校を無事卒業し、また同じ大学に進むことが決まっていた。

 2人がこの急行列車に乗車しているのは、卒業旅行の為である。

 



「美雪ちゃん。」

 愛が美雪に声をかける。

「どうしたんだよ、愛。」

「眠れないね・・・。」

 美雪は愛の顔を見つめていった。

「そうだね。寝台車じゃないから寝苦しいね・・・。」

 でもなんだか愛は落ち込んだ様子である。


 美雪は夜の景色を悲しげに見つめる愛を見ていった。

「・・・・まだ吹っ切れてないんだ・・・。先輩のこと・・・。」

 愛は少し黙り込んでから、コクッ、とうなずいた。

 そんな愛を、美雪は不憫に思った。

「・・・・そうか。あんな恋の終わりだったからな・・・。」


 
 愛は高校時代、ずっと憧れていた1年上の上級生がいた。

 しかしその上級生、この年の2月愛達が受験に追われている頃、ある女性と急遽結婚生活に入ってしまたのだ。

 愛はそれを聞いて深く落ち込んだ。なかなか元気を取り戻さない愛を、美雪は卒業旅行に誘った。

 行き先は富山県である。

 何故富山なのかというと、美雪は高校時代陸上部の合宿で富山に行った事があるのだ。

 その時その富山独特の風土、景色、文化などが大層気に入り、一度プライベートでまた入ってみたいと思っていたからである。



「・・・4月からまた同じだ学校だね・・。」
 
 愛は呟く。美雪も、

「そうだな。」

 と答える。しかし何だかやるせない雰囲気である。


 美雪はバッグの中から本を取り出し、愛に渡した。

「眠れないんだったらこれでもどう?」

 それは富山県の観光案内ブックだった。美雪が母からプレゼントされた物だ。

「有り難う・・・。」

 愛はそれを受け取り、ゆっくりと読み始めた。



 やがて2人は列車の中で、浅い眠りに付いた。



 列車は群馬の高崎から長野県に入り、新潟県の直江津駅から北陸本線を走り始めた。

 それからまもなく越後筒石、親不知を通り抜けると、そこは越中国、今の富山県である。

H.Saitouさんへの
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