地図をください

「なあ、涼子。明日何か予定ある?」
 それは彼の仕事が終わった後。毎日交わす電話の中で、いきなり切り出された話。
「明日?特に急ぎの予定もないし、別にいいわよ」
「じゃあさ、もし良かったら、...宝探し、しないか?」
 また妙なことを。
「宝探し、どこで?」
「別に、本格的にやるんじゃないんだ。ただ、ちょっとね」
「何日もかかる訳じゃないんだったら、いいけど」
「よっしゃ。じゃあ、明日迎えに行くから」
「で、どこに行くの?」
「それは、着いてのお楽しみ」
「もう」
 彼と付き合い始めて、もう7年。いきなり突拍子もないことを始めるのには慣れたけど、でも宝探しとはね。
「じゃあ、明日迎えに行くから」
「わかった。待ってるわよ」

 ...それにしても、宝探しって、どこに行くのかしら。



「.....ここなの?」
「そう、ここ」
「卯月学園....」
「うん」
「高校の中ね〜」
「それにしてもさ、高校って、こんなに小さかったっけ?」
「ふふふ。健太郎君も、本当に卒業したのね」
「そりゃあ、凉子と一緒に、とっくに卒業してる」
「違うわよ、私が言ってるのは、精神的な卒業ってこと」
「精神的な?」
「私たち、体の大きさは、高校生の頃とそれほど代わってないでしょ?」
「ああ」
「でも、高校が小さく見える」
「うん」
「人間ってね、畏怖を感じる物は、実際以上に大きく見える物なの」
「ふ〜ん」
「だから、高校が小さく見えるって言うことは、健太郎君が高校に対して、畏怖を覚えなくなった。つまり精神的に、高校を卒業したって言う事...」
「う〜ん。何となく解るような気がする」
「で、宝物ってどこにあるの?」
「そこ」
「一本杉?」
「そう」
「こんな所に何を埋めたの?」
「そりゃあ、見つけてからのお楽しみ」
 彼が悪戯っぽくほほえむ。
 こんな所は、高校生の頃と変わらないんだから。
「で?この根本を、全部掘り返すの?」
「いや、目印が...」
 と言いながら、一本杉の周りをぐるぐると回り出す。
「え〜っと。ここか、ここだな。涼子、こっち掘って」
「この辺?」
「ああ。俺は、こっちを掘るから。はい、スコップ」
「...これって、園芸用の」
「大丈夫。そんなに深くは埋めてないから」
「...解ったわよ。で?どんな物なの?」
「確か、金属の箱に入れてあるはず」
「箱ね。じゃあ、掘ってみるわ」

 
ザッザッザッ

「ふう」

 
ザッザッザッ

 やっぱりシャベルの方がいいんじゃないかしら?

 
ザッザッザッ
 
カッ

「あら?」

 
ザッザッ

「これ...かしら?」
 クッキーの空き缶...。
「健太郎君、これ?」
「あ、それそれ。開けてみて」
「開けてって、ガムテープできっちり目張りしてあって...あら?」
「開いた?」
「ええ。でも、中にまた箱が..」
「そっちも開けて」
「わかったわよ。...中に、紙と指輪...」
「読んで」
「...凉子ちゃん結婚しよう。って、え?」
 にこにこ笑いながら、彼が私の方を見つめている。
「これって...」
「会社が軌道に乗ったら、涼子に掘り返してもらおうと思ってたんだ。結婚してくれないか?」
「健太郎君...」
「今の会社を興して、初めて自分に給料を払った時、埋めておいたんだ」
 まったく、こんな悪戯が好きなんだから。工事でもされてたら、どうしたんだろう?
「で、返事は?」
「その前に、一つ聞きたいんだけど」
「何?」
「昔、私が恋人の条件を言ったこと覚えてるかしら?」
「ああ。確か、神経質は駄目で、のんびりしすぎてるのも駄目。ある程度の経済力があること...」
「あなたは、ほとんどをクリアしちゃったわね」
「努力したからな」
「でも、結婚となると、もう一つ大きな条件があるの」
「え」
 彼の顔が、とたんに不安そうになる。
 すぐ顔に出ちゃうんだから。
「この先一生、私にその人のことを好きでいさせてくれる人」
「へ?」
「家族になると、愛情は変化していくわ。恋人同士の愛情から、家族の愛情へ。でも、変わらず私に恋させてくれる人」
「...」
「ふふ。あなたなら、きっと出来るわ」
「え?」
「ありがとう。私、あなたと会えて良かった」
「え?じゃあ」
「これからもよろしくね。あ・な・た」



ど〜も。
す です。
今回は、キャラコン優勝記念、凉子ちゃんSSです。
あらすじは、早いウチに出来ていたんですが、書き始めるとなかなか進まなくて。(苦笑)
すっかり遅くなってしまって、申し訳有りません〜。
凉子ちゃん萌えなあなたに気に入っていただけると嬉しいんですが。
今回は、私のSSにしては、台詞以外の部分が少し多いかな?(お