森へおいで
チクチクチクチク。
無心に編み棒を動かし続ける。
....無心に....。
チクチクチクチク。
「....竜之介の...馬鹿」
チクチク。
「な〜にが、今年はクリスマスだからって、何かするのやめようだ」
チクチク。
「一緒に住んで、初めてのクリスマスなんだぞ」
チクチクチク。
「そりゃあ、お互いにお金無いしさ、一緒に住んでるんだから、プレゼントしあっても一緒って言うのはわかってるさ」
チクチクチク。
「でも、せっかく一緒に住んでるんだし、ロマンチックに盛り上がりたいじゃないか」
チクチク。
「ごちそう作って、ケーキ食べて、ワインでも飲んで....その後は....」
あう。無心に、無心に...。
チクチクチク。
「しかも、今日は帰れないかも知れないって」
....。
「せっかくの竜之介とのクリスマスなのに....一人で過ごすのか」
「はあ」
チクチク。
チクチク。
「あ〜。もうやめようかな」
チクチク。
「でも、もう一息だし」
チクチクチク。
「あんな事言ってたけど、このセーターあげたら、喜んでくれるよな」
チクチク。
「後は、袖を付けてと」
チクチクチクチクチクチクチク。
「よっしゃ。出来た〜」
「ふう」
「竜之介、やっぱり帰って来ないのかなあ?」
時間は、もう夜の9時を廻ってる。
「電話くらい、してくれればいいのに。気が利かないんだから」
いつも、遅くなったら電話してって言ってるのに、竜之介はいっこうに掛けてこない。
「今日は、食事いらないって言ってたな。」
トゥルルルル。
トゥルルルル。
「はい、もしもし」
誰だろう?今頃。
「あ、竜之介?」
珍しい。少しは悪いと思ってるのかな?
「え〜。今からそっちに?タンスの一番上?うん入ってる。地図?あ、あったよ。で?どうしても必要な書類だから、今すぐ持って来いって?」
.....あいつは〜〜〜。
「お前なあ、今日が何の日か、分かって言ってるのか?」
地図を見てみる。....えらく遠い。
「持っていくのはいいけど、終電終わっちゃうぞ。私、帰れなくなるじゃないか」
勝手なことばっかり言って〜。
「何とかする?わかったよ。そんな情けない声出すな。じゃあ、すぐ出るからな」
....はあ。
私って、甘いなあ。
「え〜っと。この電車で、...この駅か」
これは、電車だけで1時間は掛かるな。
「.....こ、この山の上〜?」
1時間電車に揺られ、30分ほど歩いた先には、鬱蒼とした雑木林を湛えた、山があった。
「....これ、道だよな」
森の中を縫う、踏分道を、ひたすら登る。
「ハアハアハア」
こ、こんな山道を、一人で登らせるなんて、あいつは鬼だ。
「う〜〜。刺してやる〜」
そして、いい加減疲れ果てた頃。
目の前が、突然開けた。
「うわ!」
目の前に横たわるのは、星の海。
「......綺麗〜」
「お疲れさん」
「り、竜之介。現場は?仕事じゃなかったの?」
「いずみ、メリークリスマス」
「?」
「のど乾いただろう?ワイン用意してあるぜ」
「あ〜。お前まさか?」
「以前、仕事で、この裏手に来てさ。その時見た星空が、あんまり綺麗だったから、お前と絶対見たいと思ってたんだ。で、プレゼント代わりに...」
「...そのために、こんな手の込んだことを...」
「気に...入らなかったか?」
「馬鹿!」
「馬鹿はないだろう?」
「もし嫌だって言ってたら、どうする気だったんだよ!」
「言わないさ。いずみは。」
「馬鹿」
「さあ、星を見ながら、ゆっくりワインでも飲むか」
「ところでさ、お前、寒くないのか?」
竜之介の格好は、薄いシャツ1枚。冬の夜に、この格好は...風邪引きそうだ。
「だって...」
「だって何だよ。風邪引くぞ」
「それ、くれるんだろう?すぐ暖かくなるさ」
竜之介の指差す先は、私が下げた紙袋。
「....知ってたの?」
「もちろん」
「...これ、編み上がったの、今日なんだけど」
「良かったな。間に合って」
「...間に合わなかったら、どうする気だったんだ?」
「...考えてなかった。って言うより、考える必要がなかった。実際、いずみは間に合わせてくれたしな」
こいつは〜。
「じゃあさ、もし、今日雨だったらどうするつもりだったんだ?」
「.....」
「本当に考えてなかったな?」
まったく、無鉄砲なんだから。
「さ、さあ、食事にしようか?そっちのテーブルに、少しだけど用意してあるんだ」
「テ、テント。キャンプ用品まで揃えて。」
「借りてきたんだ」
「まさか、この後は...」
「そう。ここで一泊」
「....もう」
.....本当に綺麗な星空。
....私のために、一生懸命演出考えたんだろうな。
「早く来いよ〜」
....まあ、いいか。
そういえば、この封筒の中身って何なんだ?
袋の中には、一枚の紙。
そこには、大きな文字で。
Merry Xmas
ど〜も す です。
今回は、クリスマス競作向けと言うことで、ネタをひねり出してみました。
別に、無理にクリスマスにしなくても良かったんじゃないかという気も少ししてますが。(苦笑)
これは、私にとって初めての、イベントネタになります。
何故か、イベントネタやろうとすると、ネタを思いつく前に、そのイベントが過ぎちゃうんですよね〜。
では、また別の作品で。