地上の星座
〜プロローグ〜

「ねえねえ、お兄ちゃんこれ覚えてる?」
「ああ。こんな事もあったな」
「いろんな事が...あったね」
「ああ、そうだな。いろんな事があった」

 今、俺は唯と一緒にあるホテルにいる。

「お兄ちゃん、次は?」
「お前な〜、こんな時に、写真ばっかり見るなよ」
「そんな事言ったって、お兄ちゃんてば家を出てから、一度も連絡くれなかったし」
 ぷう。 とふくれてみせる唯。
「ほ〜んと、薄情だよね〜。お兄ちゃんって」
「そ、それは、親父と美佐子さんの邪魔しちゃ悪いと思ってさ」
「取り残される唯の事なんか、全然考えてなかったでしょう?」
「...わ、悪かった」
「寂しかったんだからね」
「でも、お前もあんな事の後だし、俺と一緒に居辛いかと思ってさ」
「唯は、どんなことがあったって、お兄ちゃんと一緒にいたくないなんて、思ったこと無かったよ」
「そ、そうか」
「それなのに、とっとと家を出て行っちゃってさ」
 寂しそうな表情で、ぽつりぽつりと言葉を繋ぐ。
「それっきり、連絡もよこさないし、お母さんやお父さんと一緒に心配してたんだからね」
「うん。悪かった」
「だから、唯の知らない間のお兄ちゃんの姿、知りたいんだよ」
「だ、だからってな」
「それに、アルバム持ってきたのはお兄ちゃんなんだからね」
「そ、それは、このまま引っ越しするから」
「でも、アルバム持ってるって教えてくれたのもお兄ちゃんだよね」
「お、俺が悪かった。でも、頼むからそろそろやめてくれ」
「うん。じゃあこれが最後」
 言うが早いか、ひったくるように俺の手からアルバムを奪い、開き始める。
「時間...無いぞ」
「うん、すぐ済むから」
「まったく」

「あ、これって向こうで撮った奴?」
「あ、ああ。いつの間に撮ったんだろう?」
「あ、いずみちゃんと一緒だ」
「そ、そりゃあ。な」
「いずみちゃん、幸せそうな顔してるね」
「そ、そうか?」
「うん。唯にはわかるよ」
「そうかなあ?」
「そうだよ」
「でも、このころかなり苦労してたんだぞ」
「そんなこと関係ないよ」
「あいつにも、かなり無理させてたし」
「そんなこと、関係ないってば」
「う〜ん」
「だって、お兄ちゃんの隣にいるんだよ」
「...」
「世界で一番大好きな人の隣にいるんだよ。女の子なら、それだけで世界で一番幸せになれるもん」
「そのワリには、ずいぶん怒鳴られたぞ」
「でも、それでも幸せなの」
「う〜ん。信じられん」

 ....いろんな事があった。
 今日の日を迎えるまで。
 今まで、いろんな物語を綴ってきた気がする。
 そして、これが最後。
 そう。これは俺といずみの、恋人としての最後の物語。