遠い音楽
また俺はここにいる。
みずかのいるこの世界に。
また俺は戻ってきたんだ。
虚無のこの世界へ。
でも、今回はもとの体のまま。
子供の頃には、戻らない。
「おかえり。」
「ただいま、みずか。」
「そうか、見つけたんだね。大切なものを。」
「うん、だからみずかとは、もう一緒にいられないんだ。」
「ふふ。いつかはこうなると思ってたよ。」
ふと、寂しそうな顔をするみずか。
「そうか。」
「おめでとう。」
馬鹿。そんなことを言ってる場合か。
このままだと、この世界とおまえは...。
「ほら、やっと元の世界との絆を見つけたんだから、あなたがそんな顔しないの。」
「....。」
「さあ、笑ってよ。」
みずか。
「なあ、1つ聞いてもいいか?」
「何?」
「この後...この世界とみずかはどうなるんだ?」
「それが心配で、そんな顔してるの?」
「ま、まあな。」
「ありがとう。でも...大丈夫だよ。」
「どうして?」
「この世界は、あなたが望んだから生まれたって、前に言ったよね。」
「ああ。」
「だから、私も一緒に、あなたの中に吸収されるんだよ。」
「....。」
「だから、大丈夫。心配しないで。」
「それで...それでいいのか?」
「うん。あなたの中に私はずっと生きられるんだもん。」
「だけど...。」
「それに、それが本来の姿なんだよ。ただそれに戻るだけだから。」
ちょっと寂しそうに、それでも、健気に笑ってみせるみずか。
「さあ、ちょっと離れてて。この世界を消さなくちゃ。」
「え、もうか?」
「早い方がいいからね。」
「...そうか。」
「あ、ちょっとこっちに来て。」
「ああ。これでいいか?」
「もうちょっとこっち。で、しゃがんで。」
「これでいいか?」
「うん。」
ちゅ
「へへ。最後だもん。これくらいいいよね。」
「みずか。」
「さあ、離れて。」
「...。」
俺には、もうみずかにかける言葉が残ってなかった。
「世界を消すショックで、1〜2年跳ばされちゃうかも知れないけど。」
「そうか。」
「いくよ。」
光がみずかに向かって、集まっていく。
白い光の中心で、みずかが俺に向かって微笑んだ...様な気がする。
ああ...みずか、君がいなくなるんだったら、俺は絆を求めたりはしなかったのに。
一人きりの世界で、俺のために存在し、俺のことを待ち続けた。みずか。
『悲しまないで、私はあなたと一緒にいるから。』
ああ、みずかが俺の中に入ってくるのが解る。
『これからは、本当にえいえんに一緒だよ。』
そうだな。これからは、ずっと一緒なんだ。
気がつくと、俺は学校の裏の林の中にいた。
胸の中で、「トクトク」と、遠い力強いリズムが刻まれている。
『一緒にいるよ。』
みずかの声が聞こえたような気がした。
さて、行かなくちゃ。
俺を待ってる、もう一人の瑞佳のもとへ。
「よう、久しぶりだな。」
「一年も何してたんだ。」
クラスメート達が口々に声をかけてくる。
それにいい加減に答えながら、俺はある席を目指していた。
何よりも大切な人。
俺の瑞佳。
「ごほん。」
げ。学級日誌つけてやがる。
「ごほん、ごほん。」
げ。顔も上げやがらねえ。
「ごほん、ごほん。」
こいつ、熱中すると、周りのことが見えなくなるからな。
あれ?何か肩が震えているような。
「あのな、瑞佳。」
日誌を書いていた手が止まり、瑞佳がゆっくりと顔を上げる。
「瑞佳。あのな。」
がば〜。
いきなり、瑞佳が俺に飛びついてくる。
「浩平。おかえり」
「ただいま。瑞佳。」
今度こそ、離さないように、瑞佳の体をしっかりと抱きしめながら、俺はもう一度繰り返す。
ただいま。これからは、ずっと一緒だよ。瑞佳。そしてみずか。
ど〜もど〜も「す」です。
今回はONE〜輝く季節へ〜前作のアナザーストーリーとなります。
前作で描いたのがBAD-END、今回がGOOD-END編となります。
これで、私のSSも10作目。
1本でもあなたの気に入る作品があるといいのですが。
少しは、上達してますでしょうか?
では、また別の作品でお会いしましょう。