「夕焼けリンゴ」〜第7話〜
「いずみちゃん。」
「ひっく。」
「いずみちゃん、どうしたの。」
「ひっく。」
「こんな所で、うずくまって。」
「あ、ぐす、唯。」
「ちょっと、いずみちゃん泣いてるの?」
「ぐす。」
「どうしたの?何かあったの?」
「ぐす、ひっく。」
「隣、座っていい?」
「うん、ひっく。」
「落ち着いてからでいいから、何があったのか話してくれない?」
「ひっく。」
「唯で力になれるなら、聞かせて。」
「ひっく、ひっく。」
「・・・・・。」
「友美が。」
「友美ちゃんがどうしたの?」
「友美が、もう友達じゃないって。」
「そう。」
「友美に、竜之介とのこと、全部話したんだ。」
「それで、友達じゃないって言われたの?」
「ひっく、うん、それに。」
「それに?」
「竜之介を呼びだして、誘惑するって。」
「お兄ちゃんを?」
「私が、竜之介は責任感が強いから、私を抱いたことに責任を感じて、つきあってくれることになったって言ったら。」
「ちょ、ちょっといずみちゃん。」
「友美が、まだチャンスがあるって言って。」
「いずみちゃん、本気でお兄ちゃんが責任感からだと思ってるの。」
「思いたくないけど、だって、ほかに私なんかが、唯や友美に勝てる理由がないじゃないか。」
「いずみちゃん、その私なんかって言うのやめなよ。」
「だって。」
「いい?いずみちゃんは、唯や友美ちゃんに勝ったんだよ。」
「勝ったって言われても。」
「もっと、自分に自信持たなきゃ。」
「でも。」
「あのお兄ちゃんが、選んだ人なんだから。」
「う、うん・・・。」
「で?友美ちゃんは、どこにお兄ちゃんを呼びだしたって?」
「ATARUの遊園地。」
「え?それって友美ちゃんが教えたの?」
「うん。」
「ふ〜ん。そっか。」
「何1人で納得してるんだ?」
「何でもないよ。それより、ATARUに行かなきゃ。」
「だ、だめだよ。」
「どうして?」
「友美に絶対来るなって言われてるし。」
「そんなこと、言ってる場合じゃないでしょ。」
「それに、友美のこと疑ってるみたいで。」
「もう。どうしてそこまで気を使うの。」
「だって、私はまだ親友だと思ってるから。」
「本当に信じてるの?」
「ああ。」
「友美ちゃんはともかく、相手はあのお兄ちゃんなんだよ。」
「竜之介は、女の子を泣かすような奴じゃない。」
「それはそうだけど。」
「おまえも知ってるだろう。」
「じゃあ、行かないの?」
「ああ、唯と話してたら決心が付いたよ。」
「う〜ん、じゃあ言わないでつれていこうと思ってたんだけど。」
「何?」
「あのね、友美ちゃんも本当は、いずみちゃんに来てほしいと思ってるんだと思うよ。」
「友美が?どうして?」
「だって、友美ちゃん、いずみちゃんに行き先、教えたんでしょう。」
「うん。」
「本当に、お兄ちゃんを誘惑するつもりなら、教えないと思うんだ。」
「あっ。」
「内緒で呼び出せば、邪魔が入る心配もないしね。」
「うん。」
「だから。行こうよ。」
「う〜ん。」
「ね。」
友美、本当にそうなのか?
本当だとしたら、私と竜之介を呼んでどうしようって言うんだ。
「唯、切符を買って来てあげるね。」
「あ。」
どうして、唯の奴あんなに嬉しそうなんだろう。
「おまたせ。」
「はい、2人分の切符代。」
「いいのに。」
「だ〜め、唯は私につきあってくれてるんだから。」
「は〜い、じゃあ行こう。」
プアン
「なあ、さっきの話だけど、本当に友美が待ってるって思うか?」
「本当のことは、友美ちゃんにしかわからないよ。」
「だよな。」
「でも、きっと友美ちゃんもいずみちゃんの事、嫌いになってないと思うから。」
「だといいんだけど。」
プシュー
「なあ、唯。」
「何?」
「変なこと聞いていいか?」
「うん。」
「どうしてお前、こんなに私によくしてくれるんだ?」
「へへ〜。」
「だって、私と竜之介がうまく行かなかったら、お前にもチャンスがあるんだぜ。」
「この間言ったじゃない。応援するって。」
「でも。」
「それにね。へへっ。」
「何だよ。にやにやしちゃって。」
「だって、いずみちゃん唯のお姉ちゃんになるかもしれないから。」
「ば、馬鹿、まだ早いよ。それに竜之介とも血の繋がりがないんだから、お姉ちゃんじゃないだろう。」
「唯ね、お兄ちゃんがいずみちゃんとつきあうって言ったときに決めたの。」
「何を?」
「竜之介君は、これから先、ずっと唯のお兄ちゃんなの。」
「ずっとって。」
「もしも、いずみちゃんと別れるような事があっても、ずっと。」
「唯。」
「だから、お兄ちゃんのお嫁さんは、唯のお姉ちゃんなの。」
「お前、それでいいのか。」
「うん、決めたんだ。いずみちゃんがそうなってくれたら、1番嬉しいんだけどな。」
そうか、唯は本当に強いんだな。
私も見習わなくっちゃ。
「それに、唯にはお兄ちゃんはいたけど、女の姉妹はいないから楽しみなんだ。」
「でも、私が唯のお姉ちゃんになったら、唯の事いじめるかもしれないぞ。」
「ふふ。いずみちゃんはそんなことしないよ。」
「わからないぜ。」
「お母さんと、お兄ちゃんのお父さんと、お兄ちゃんと、いずみちゃんと、唯、5人で暮らすの。きっと楽しいよ。」
「おいおい、唯は1人かよ。」
「唯はまだ、お兄ちゃん以外の人、考えられないから。」
しまった、考え無しなこといっちゃったな。
「ごめん、唯。」
「ううん、いいの。」
「あ、友美ちゃんだ。」
「ああ。」
「じゃあ、唯はもう行くね。」
「ああ、後は自分で何とかしなくっちゃ。」
「がんばってね、お姉ちゃん。」
「馬鹿、ありがとう。今度は、私が頑張る番だ。」