「夕焼けリンゴ」〜第6話〜

「なあ、友美、今日は家の人は?」
「今日はみんな出かけてるの。」
「そうか。」
「そんな所に立ってないで座ったら?」
「うん。」
ふう、何から話せばいいんだろ。
どうせばれてるんだろうから、正直に全部話した方がいいのかな?
「で?竜之介君と何かあったんでしょう。」
う、いきなり核心からか。
「ああ、実はさ。」
「実は?」
「実はさ、私、竜之介に誘われて、あきらと洋子と4人で、温泉旅行に行ってきたんだ。」
「やっぱり。」
「それで、その。」
う〜言いにくい。
「それで?」
「旅館で、私から竜之介を誘って。その〜。」
「いずみちゃん、はっきり言って。あなたの口から聞きたいの。」
そんなこと言われたって。

えい、思い切って。
「私、竜之介に抱かれたんだ。」
ふう。
「それで、帰ってきたら、竜之介が私とつきあってくれるって。」
「そう、それであんなに幸せそうな顔をしてたのね。」
あれ、友美、冷静だな。
「ごめん、友美の竜之介に対する気持ちを知ってたのに、抜け駆けするような形になっちゃって。」
友美、何とか言ってくれよ。
「ほら、あいつってあれで責任感が強いから。」
何言ってんだ、私は。
「そういう関係になったから、つきあうって言ってくれたんだと思うけど。」
なんか、言い訳みたいに聞こえるな。
「もう1度確認するわよ。」
「うん。」
「旅行には、竜之介君が誘ったのね。」
「ああ。」
「で、いずみちゃんはそれを受けたのね。私の気持ちを知っていたのに。」
「あ、ああ。」
なんか、きつい言い方するな。
やっぱり怒ってるのか?
「で、あなたが竜之介君を誘惑して、肉体関係を持ったのね。」
「ああ。」
なんか、取り調べみたいだ。
「で、それに責任を感じた竜之介君が、あなたにつきあってと言ったと。」
「きっと、そうだと思う。」
ふう。
「で、でさ、私は友美とも今までどうり、友達でいたいんだ。」
うんって言ってくれ。
「だめよそんな虫のいい話。」
「え。」
虫のいいって。
「いい?あなたは私がどんなに竜之介君のことを好きだったか知ってたはずよ。」
「うん。そりゃあ。」
「それを承知の上で、彼を誘惑しておいて。」
「そりゃあそうだけど。」
「それで、友達って言えるの?」
うう。
「だ、だけど、私だって竜之介のことが好きなんだ、好きな人から誘われたら、嫌とは言わないよ。」
「でも、旅行に行ったからって、彼を誘惑する必要はないでしょう。」
それは、そうだけど。
「大体、旅行をOKした時点で、私との友情より竜之介君を選んでるじゃない。」
「うっ。」
「でも、私にとっては竜之介も友美も、同じくらいに大切なんだ。」
「それは、あなたの気持ちでしょう。私は、あなたより竜之介君の方が大切だった。」
「でも、私1番恋人になる可能性が低いから、あんなチャンスでもないと、友美や唯に勝てないから。」
「あきれた。あなた、本気でそんなこと思ってたの?」
だって、事実じゃないか。
「ふう、なんか気が抜けちゃったわね。」
「なあ、やっぱり友達のままじゃいられないのか?」
「方法は、あるわよ。」
「え、ど、どんな。」
「竜之介君と別れて。」
そ、それは。
「あなたが竜之介君と別れれば、もとどうり友達でいられるわ。」
「それは、それだけは、できない。」
「でしょう、あなただって竜之介君のことが1番大事なのよ。」
うう。
「だから、もうそんな事言うのはやめてちょうだい。」
「でも。」
「いい?あなたが竜之介君の恋人になって、私は失恋したのよ。」
「それは、そうだけど。」
「だから、私はあなたを恨むの。」
「そんな。」
「私は、竜之介君を好きだった分だけ、あなたと竜之介君を恨むの。」
私が悪いの か。
「わかったら帰ってちょうだい。もう話すことはないわ。」
友美。
「あ、1つだけおしえてあげる。」
「何?」
「私、これからATARUの遊園地で竜之介君と会うの。」
「えっ。」
あいつそんなこと言ってなかったぞ。
「ちょっと、私の勘違いで竜之介君を責めたことがあって。」
ふ〜ん。
「そのお詫びを言いたくて、呼び出したんだけど。」
「けど?」
「私が彼を誘惑したら、どうなるかしら。」
そんな、友美に誘惑されたら。
竜之介のことだからきっと。
「私も肉体関係を持てば、責任を感じてくれるかしら?」
「友美、そんなに。」
「まだ、私にも少しはチャンスがあるって事よね。」
「おまえ、そんな奴だったのか。」
「話はこれでお終い。さあ、帰ってちょうだい。準備があるの。」
「と、友美ちょっと。」
「さあ、帰って、もう話したくないの。」
わかったよ。
「絶対来ないでよ、これ以上私の邪魔をしないで。」
「ああ、私は竜之介とおまえを信じてるから。」
「いつまでそんな事言ってられるかしら。」
「じゃあな。」
「もう私に話しかけないでね、さようなら。」

パタン

ふう。
友美が、ほんとにあんな事するわけないよな。
もしやったとしても、竜之介が応じるわけがないさ。

でも。

竜之介だしな。
友美もあれで思い切った事するし。

もう友達じゃない、か。
「ぐす。」
あれ、涙。
私、泣いてるのか?
泣くな、いずみ。

最悪の事態は、覚悟してきたはずじゃないか。
とにかく歩こう。
「ぐす。」
泣くな。
さあ、足を動かして。
こんな気分の時は、竜之介のことでも考えて。
左、右、左、右、左、右。

「ずっ。」
左、右、左、右、左、右。

「ぐず。」
ひだり、みぎ。

「うっ。」
疲れてるんだ、きっと。
もう、足が動かないや。

駅のベンチで、一休みしていこう。

「うっ、くっ。」
こんな町中で、泣くんじゃないってば。
さあ、座って一休み。

「うっ、うっ、う〜。」
わ、私が悪いんだよな。
私が竜之介を好きにならなければ、友美だって。

「ぐす、くう、う〜。」
こんなに辛いんなら、恋なんかしなけりゃよかったんだ。

「う、う、う。」
恋愛ってもっと、楽しいものだと思ってた。

「ひっく、ひっく、ぐす。」

「ひっ、ひん、ひん。」