「夕焼けリンゴ」〜第5話〜
「いずみさん。」
「いずみさん。」
「いずみさん、起きなさい。朝ですよ。」
「う〜ん。」
「お休みだからっていつまでも寝てないで、朝御飯出来てますよ。」
「ふあい、お母様、今行きます。」
「ふああ〜。」
さて、今日は友美か、やっぱり正直に言うしかないだろうな。
まずは御飯を食べるか。
「おはようございます。お母様。」
「さあ、早く食べなさい、私はこれから踊りのお稽古で出かけますからね。」
「いただきます。」
「はい、どうぞ。」
「私もこれからでかけます。」
「あら、デート?」
えっ
「ち、違います。」
「あら、違うの。」
お母様〜。
年頃の女の子にそんなこと言う母親なんていないよ〜
うれしそうにそんなこと言わないで。
「今日は、水野さんのお宅におじゃまします。」
「先様に粗相の無いようにね。」
「はい、お母様」
「ごちそうさまでした。」
「はい、お粗末様でした。」
着替えて、出かけるか。
「じゃあ、行ってまいります。」
「今日は遅くなるの?」
「ひょっとしたら。」
「遅くなるときは、電話するんですよ。」
「はい。」
「気を付けて、いってらっしゃい。」
さあ、行くか。
気合いを入れないと足が進まない。
何度も友美の家に行ったけど、こんな事初めてだな。
さて、どう言ったもんかな?
あの時の友美の態度、ありゃあ絶対に気付いてるよな。
本気の友美を、私がごまかせるはずもないし。
やっぱり、正直に話すか。
でも友美傷つくだろうな。
もう、友達でも居られなくなるかもしれないな。
「いずみ、暗い顔してどうした。」
あ、竜之介。
なんか、偶然会えると嬉しいな。
「風邪でもひいたのか?」
ん?あ、気が付かなかったけど、ここ病院の前か。
心配 して くれたの かな?
「まあ、何とかは風邪ひかないって言うし。いずみが風邪なんかひくわけないか。」
むう、せっかく感動してたのに。
よし、おどかしてやれ。
「実は、妊娠したんだ。」
「え、ええええええ〜」
こんなに驚くとは思わなかったな。
「ば、馬鹿冗談に決まってるだろ。」
「し、趣味の悪い冗談言うなよ。」
「まだ、2日しか経ってないのに、そんな事わかる分けないだろう。」
「し、心臓が止まるかと思ったぞ。」
「おまえが、1言多いからだよ。」
「せっかく人が心配してやったのにな〜。」
「そうは聞こえなかったぞ。」
「やっといつもの表情に戻ったな、じゃあまた今度な。」
あ、行っちゃった。
ホントに心配してくれたのかな?
やっぱり竜之介優しいな。
って、こんな所でぐずぐずしてないで、友美の家に行かなきゃ。
ふう、嫌だな。
私は、竜之介も友美の失いたくないのに。
これって、贅沢な望みなのかな。
でも、どちらを失っても、幸せじゃない気がするんだよな。
おっと、友美の家だ。
ピンポーン
「はーい。」
友美の声だな。
「いずみだよ。」
「いずみちゃん?待ってたのよ。鍵は開いてるから上がってきて。」
「わかった。」
ガチャ
上手く言えるかどうか、わからないけど。
自分の気持ちだけは、伝えなくちゃ。
「おじゃましま〜す。」