「夕焼けリンゴ」〜第4話〜

ピンポーン

「いずみです、だだ今帰りました。」

ガラガラガラ

今時、こんな武家屋敷みたいな門、何とかしてくれないかな。
八十八町って、わりとモダンな家が多いから、目立つんだよな。
靴をぬいでっと。
「いずみさん、お帰りなさい。」
「ただいま、お母様。」
「早く着替えてらっしゃい、夕御飯にしますよ。」
「お父様とお爺様は?」
「お父様は会社の会議で出張、お爺様はいつもの剣道場の合宿の指導でお泊まりでしょう。」
ふう、よかった。その予定だったから、旅行OKしたんだけど。
いきなり予定が変わるって事もあるもんな。
「それじゃ、着替えてきます。」
ご飯食べたら、竜之介に電話しようかな。迷惑じゃないよね?
そう言えば昨日、家から電話がなかったって言ってたけど、お母様電話忘れたのかな?
さあ、御飯だ。
「いただきます。」
「はい、召し上がれ。」
うー、肉まん食べてくるんじゃなかった、食欲がないぞ。
「お母様、昨日電話がなかったみたいですけど。」
「いずみさん、あなたももう大人ですから、お友達とのおつきあいで、外泊や、遅くなることも増えるでしょう」
「はい。」
「ですから、あなたを信用して、家からは電話はしません。」
良心がチクチクと。
「事前に、私に報告して、先方様にご迷惑のない様にするのですよ。」
信用されてるのか。
まさか、最初からバレバレって事は、無いだろうけど。
お母様、わりと鋭いからな。
「はい、わかりました。」
さあ、食べ終わったし、早く部屋に戻って、竜之介に電話しよう。
「いずみさん。早く紹介して下さいな。」
「はい。」
って、えっ。
お母様がにっこり笑ってる。
「私は、いつでもあなたの味方よ。」

ば、ばれてる〜

はあ、私ってそんなに、隠し事に向いてないのかな?
プルルルル プルルルル
あ、部屋の電話が鳴ってる。
この部屋に直通の番号を知ってる人は、あまり多くないから。
もしかして、竜之介だったらうれしいな。

「もしもし。」
「おういずみ、やっと出たか。」
やっぱり竜之介だ。
「どうしたんだ、珍しいな。」
「愛し合う2人に、理由はいらない。」
「なに、馬鹿ばっかり言ってんだよ。」
だめだ、冗談だってわかってるのに、どきどきしちゃう。
「俺の声、聞きたかったろう。」
「そんなことばっかり言うために、電話してきたのか。」
「いや、今日は唯の事なんだ。」
「ゆ、唯がどうかしたのか。」
「あいつ、お前の所に行かなかったか?」
「ど、どうして。」
「いや、今日帰ってきてから、お前と付き合う事になったって言ったんだ。」
「もう?」
「早い方がいいだろう。」
「でも、お前だって唯の気持ちは知ってるだろう。」
「ああ、それがどうかしたのか?」
「だったら、もう少し時間をかけて、それとなくとか。」
「そりゃだめだ。俺が唯の方を向く可能性が無くなった以上、いつまでも期待を持たせるのは、かわいそうだろう。」
「うん、それはわかるけど。」
「で、お前と付き合う事になったって言ったら、おめでとうって言って、出ていったからさ。行き先は、お前の所かと思ったんだ。」
「ああ、さっき会ったよ。で、もう帰ってきたのか?」
「ああ、さっき帰ってきて、今は部屋にいるみたいだ。」
「そうか。」
「唯から何か言われなかったか?」
「何を気にしてるんだ?」
「いや、無いとは思うけど、ひょっとして、お前が何かひどいこと、言われたんじゃないかと、思ってさ。」
「心配してくれるのは、うれしいけど。お前、唯がそんなやつだと、本当に思ってんのか?」
「いや、思ってない。」
「だったら言うな、私もおめでとうって言われただけだよ。」
「そうか、だろうな、とは思ってたんだ。」
そう断言されると、ちょっと嫉妬しちゃうな。
「そう思ってんだったら、そんなこと言うんじゃない。唯に失礼だろ。」
「うん、すまん。」
「ところで、唯からもう一つ言われてた事があったんだけど。」
「なんだ?」
「私のこと、いつから好きだったのか、聞いて見ろって。」
「じゃあ、もうおそいから。」
「まだ、寝る時間じゃないだろう。」
「こ、今度教えてやるよ。じゃあな。愛してるよ。」
やだ、こんなときに。

ガチャン

あ、逃げた。
うーん、あんなにあわてて、何か言いたくない訳でもあるんだろうか。
まあ、あいつ照れ屋だからな。

「いずみさん、お風呂に入りなさい。」
「はーい。」

ジャバーン
ふう、お風呂にはいると、冬至温泉のことを思い出すな。

あいつが触ってくれた髪。

あいつが触ってくれた体。

なんか、洗っちゃうのがもったいない様な気もするけど。

いつか来る、今度のために。竜之介のために。きれいに洗っておこう。

ふあああー

昨日、あんまり寝てないから眠くなっちゃった。

明日は友美にあって、説明しなきゃな。

さあ、ちょっと早いけど、お風呂から上がって、寝ないと。