「夕焼けリンゴ」〜第3話〜

 あれ、考えながら歩いてたら、いつの間にか自分の家の前だ。
友美にあってから、どう帰ってきたのか覚えてないや。

「いずみちゃん。」

えっ、誰か呼んだ?

「いずみちゃん、こっちだよ。」

え゛っ。ゆ唯。

「どうしたのいずみちゃん。」
う〜、友美と言い唯と言い、今日はまだ会いたくなかったんだけど。
「そんなにびっくりしたの?なんか変な顔してるよ。」
「どうしたんだよ唯、こんな時間に。」
「うん。」
なんか唯の表情が堅い、思い詰めたような表情をしてる。
「唯ね、いずみちゃんにお祝い言おうと思って。」
「お祝い?」
「お兄ちゃんから聞いたんだ、いずみちゃんとお兄ちゃん、付き合うことにしたんだって?」
「ゆ、唯。」
「あっ、誤解しないでね、唯は2人が付き合うことホントに嬉しいんだから。」
でも唯、おまえ顔が引きつってるぞ。
「前からお兄ちゃんに、少しずつ話を聞いてたから、唯は自分にチャンスがないことは解ってたんだ。」
「だからって、割り切れる物じゃないだろう。」
「うん、でも、相手がいずみちゃんだから。」
「でもお前、あんなに竜之介のことが好きだったのに。」
「たとえばお兄ちゃんの相手が友美ちゃんだったら、悔しかったかもしれない。」
「友美はだめで、私だったらいいのか?」
「だって、友美ちゃんと唯は、同じ立場なんだよ。」
「同じ立場って?」
「友美ちゃんと唯は、お兄ちゃんの妹みたいなものだもん。」
「妹?」
「そう、2人とも、小さい頃から、お兄ちゃんに守られてきた妹。だから、唯も友美ちゃんも、お互い相手が選ばれたらどうして自分じゃだめなの?って思うもん。」
「じゃあ私は?」
「いずみちゃんは、違うもん。いずみちゃんなら、お兄ちゃんに甘えずに、お兄ちゃんを支えることだって出来ると思うから。」
「かいかぶりだよ。」
「ううん、少なくとも唯は、いずみちゃんにならお兄ちゃんをまかせられると思ってる。たぶん、友美ちゃんも」
唯、こんなに涙をためて、そんなに竜之介のことが・・・・。
「どうしたの?いずみちゃん。いずみちゃんがそんな顔しちゃだめだよ。」
「ばか、泣きそうなのは、唯じゃないか。」
「唯は、お兄ちゃんにふられたんだから、泣きそうでもいいの。いずみちゃんは、幸せなんだから笑ってよ。」
「そんな話を聞いて笑えるわけないだろう。」
「だって。」
唯の頬を、涙がつたって落ちる。
1粒、2粒。
突然、唯が私に抱きついてくる。
「ごめんなさい、唯は、唯は、笑って2人を祝福するつもりだったのに。」
「なあ、唯、他の人を傷つけない恋愛ってないのかな?」
唯は、嗚咽を漏らすだけで答えない。
「私が竜之介を好きにならなかったら...。」
「そんなこと言っちゃダメ!」
「でも。」
「それって、お兄ちゃんにも唯にもすごく失礼だよ。それにお兄ちゃんが、唯以外の誰を選んでも、唯は悲しいんだから。そして、唯が選ばれても、誰かが悲しむんだから。」
唯の口調が、いつになく強い。
「それに、唯はいずみちゃんのことが好きだから。だから、お兄ちゃんがいずみちゃんを選んで良かったって思ってるんだから。」
あ、ありがとう。唯。
「泣いた人がいるから、上手く行った人は、その分幸せにならなくちゃいけないんだよ。」
そうか、そうだよな。
「ごめんね、泣いちゃって。今は無理だけど、すぐに笑って祝福できるようになるから。」
「しょうがないさ、それだけ竜之介のことが好きだったんだろ?」
と、突然唯の瞳が悪戯っぽく光った。
「ねえ、お兄ちゃんに、いつからいずみちゃんのこと、好きになったか聞いた?」
「な、何だよ突然。」
「今度聞いてみなよ。じゃあ唯は帰るから。」
「お、おい唯。」
「お兄ちゃんのこと、離しちゃダメだよ。離したら唯がもらっちゃうからね。」
「あ、唯。」

にこっと笑うと、走って行っちゃった。
泣いた人がいるから、その分幸せにならなくちゃか。
その通りだよな。
なんか、そう思うとすっきりしちゃった。
唯や友美が、竜之介のことを好きだった分だけ、私達、幸せにならなくちゃ。
唯、ありがとう。
それにしても、いつから好きだったか、か。
今度聞いてみよう。
唯が前から聞いてたって言ってたけど、結構前から、私のこと好いてくれてたりして。

それはないか。

さあ、私も家に入ろう。




中書き

どーもどーも「す」です。
今回で第3話になった夕焼けリンゴですが、この先何回続くやら。
ラフ取らずに書いてるもんで、どれくらいの長さになるか、書いてる本人にも予想が付いていません。
それにしても、我ながら出来、不出来のムラが激しいです。
第3回が終わったのに、バスを降りてから1〜2時間しか経っていないし。
で、本来は唯の出番は無かったのですが、友美が出てきて、唯が出てこないのは、片手落ちかな?と言う気がして登場願いました。
(これで結末がまた遠くなった気がする。)
次回でとりあえず、1日目は終わる予定です。
まだまだ長くなりそうですが、よろしければこの先もおつきあい下さい。