わすれな草 |
このSSは「チチ戦争2」のエンディング第4エンドに相当するものです。
キラリ
前を走るトラックの荷台から落ちたそれは一度だけ陽の光を反射した・・・・・
トラックの後方を走る車を運転していた麗子はなにが起きたのか理解できなかった。
瞬間、フロントガラスが白くひび割れ、次に赤く染まる。
そして自分の意識が遠のいてゆく、
「なりぽし・・・」
最期の想いは最愛の者と、そして二人の間に生まれるはずであったお腹の子にむけられた。
まさに奇跡といえた。
通常であれば猛スピードのまま側壁に衝突し、車体は大破、悪くすれば爆発炎上していてもおか
しくは無かった。
しかし、麗子の乗った車は徐々に速度を落とし、側壁に左側面をこすりつけ非常退避帯の側壁の
段差に引っかかるように停車していた。
後続の車が停車し人々が駆け寄る。
一人が麗子の車のドアを開け、すばやくエンジンを切る。
運転席に入った上半身の姿勢を直し運転者の安否を確認する。
そこには半身を血に染めた麗子が居た。
一目見ただけで誰の目にも既に息は無いことは明らかだった。
即死だった。
フロントガラスを突き破った金属片は、鋭い刃物となり麗子の頚動脈を切り裂き、ヘッドレストの支柱
に食い込んで止まっていた。
麗子の頸部には大きな傷口が開いていたが、そこからの流れは止まっていた。
車が停止してから数分。
救急車のサイレンを聞きながらも人々には為す術は無かった。
警察からの連絡で麗子の父親と定岡は病院に駆けつけた。
お嬢さんが事故に遭い重態であるとの連絡があった。
しかし、二人が病院に着く数時間も前に麗子はこの世を去っていた。
父親は立ち尽くし、定岡は床に座り込み号泣していた。
医師が言う。
「残念ですが、お嬢様もお腹の赤ちゃんも・・・・・」
麗子の父親は振り返る。
「赤ん坊?」
「ご存知有りませんでしたか?
お嬢様は妊娠なさっていました。15週に入ったぐらいのようです。」
「くっ・・・・・」
苦渋に満ちたうめきが父親の口から漏れた。
「お父様、どうしても許してくださらないのね。」
「当然だ、あんな無能なボディーガードなんかに新藤家の一人娘をやるわけにはいかん。」
「お父様!! なりぽしは無能なんかじゃなくってよ。」
「ふん、定岡の後輩だというから雇ってやったのに、親兄弟も居ないような奴にはモラルというもの
もないようだな。 主人の娘に手を出すとは。」
「手を出すって・・・・なりぽしからじゃないわ。」
「なんだと!! 新藤家の後継ぎのお前からあんな奴を誘ったというのか。」
「そ、そうよ。 なりぽしを愛しているからそうしたの。 彼もわたしを愛してくれているわ。」
「ふん、そんなものは嘘に決まっている。 どうせ新藤家の財産が目的だ。」
「違うわ!!! 彼は財産なんか欲しがって居ないわ!!!
お父様はいつもそう・・・・
お仕事のことは何でもご存知・・・でも、わたしのことは何も解っていないのよ。
お父様はわたしに新藤家の後継ぎとして必要なことは教えてくれたけど、そのことがわたしを
どんなに孤独にしたか解って無いのよ。
なりぽしは確かにグズだし何も持っていないけど、わたしのことを抱きしめてくれたわ。
なりぽしだけがわたしのことを解ってくれたのよ。」
「麗子・・・・お前がそんな普通の娘のような考えをするとは・・・
帝王は孤独であるべきなのだよ。 新藤財閥の総帥であるからには。」
「ええ、お父様は完璧な帝王ね。 そのためにお母様がどんな想いをしたか、お父様はそれを知ろ
うともしない。」
「うるさい!!! あれのことは言うな。
新藤財閥にとって重大な案件のあった時期に、あのようなことがあったことが不幸だったのだよ。」
「不幸? お父様、お母様は不幸だったと認めるのね。」
「そうじゃない、時期が不幸だったのだ。」
「・・・・やはりお父様は完璧な帝王ね。 孤独にも耐えられるもの・・・
でもわたしは違うわ、もう一人じゃ生きられない・・・・・・・
わたしはなりぽしと生きるの。
お父様がなりぽしを呼び戻してくださらないなら、わたしが・・・」
「出て行くのか。」
「ええ。」
「あんな軟弱な男のところへ。
二人のことを私に反対されて何も言えずにお前を置いて出て行った男のところへか。」
「ええ。 もうこれ以上話しても無駄なようだから・・・・
お父様には報告しておきたいことも有ったのだけど・・・
お父様さようなら・・・・・・」
平行線の議論を自ら打ち切り去ってゆく凛とした後ろ姿、それが彼の見た娘の最期の姿だった。
「なりぽし、待っててね。」
なりぽしの居所は定岡に調べさせてあった。
父親と決別しても麗子の心は晴れていた。
「わたしあなたと暮らすわ。 この子と一緒に三人で・・・・」
キラリ
前を走るトラックの荷台から落ちたものが光った。
後書き |
今回の「五択」SSは、「チチ戦争 バットエンディング」です。
これまで「チチ戦争」には「ハッピーエンド」のバージョンが幾つかありましたが、今回は30000HIT記念にも
関わらずバットエンドです。
悲劇的な最後を知ることによって幸せがさらに引き立つということもあるかも知れません。
まあ、たまには暗いお話も良いかなと・・・・・・・・
「れいなり」30000HIT達成は、「五択」に挑戦してこのSSを読んでくれるような方達に支えられてのものだと
思っております。
これからも皆様に愛される「れいなり」でありたいと思うなりぽしですぅぅぅ。 ヽ(´▽`)/へへっ