「どうして奈留のお願い聞いてくれなかったのかな・・・・・」
クリスマスの朝、娘の奈留が言う。
「ねえ、かあさま。」
「なあに、奈留。」
「あのね、かあさま・・・・サンタさんが奈留のお願い・・・・聞いてくれなかった・・・・ぐすっ。」
娘の声に気づいたが、麗子が目配せするので寝たふりをした。
薄目を開いて見ると奈留は目に一杯の涙を溜めている。
もう間もなくこぼれ出すのだろう。
「奈留は、ずっと良い子にしてたよね・・・・・にんじんも食べたし・・・・・・
なりぽしとうさまの嫌いなお魚だって残さず食べたよ。
幼稚園でもお友達と仲良くしたし・・・・
ね、かあさま。 奈留は良い子だったよね。」
実際に奈留は親の目から見ても良い子である。
奈留は続ける。
「ねえ、かあさま。 奈留の欲しかったクマさんのぬいぐるみ・・・・・
サンタさん忘れちゃったのかな・・・・・ぐすっ・・・・」
クマのぬいぐるみ・・・・
奈留はずいぶんと前から大きなクマのぬいぐるみを欲しがっていた。
本来ならば昨夜のうちに奈留の枕もとに置けるはずだったのだが・・・・・・
年末の忙しさに加えて、恥ずかしい限りだがクマのぬいぐるみを買うお金の余裕が、
我が家にはなかった。
「奈留。 ごらんなさい。
クマさんは居ないけど、ほら、赤い手袋とマフラーとお帽子が・・・・・」
「あああん・・・・」
とうとう涙がこぼれた。
とめどなく・・・・・
ぽろぽろと・・・・大きな涙が・・・・・
「あああん、クマさんが良いの〜。 クマさんじゃなきゃ〜。」
普段、奈留はこんなに泣くなんてことは無い。
心配になり麗子を見る。
麗子は、またも目で伝える。
私は、寝たふりを続けなければならないようだ。
「奈留。 かあさまのお話聞いてくれる。
奈留いいこと、サンタさんは奈留のところだけに来てくれるんじゃ無いわよね。
世界中に居る良い子たちみんなのところに行くのよね。
良い子の中には、いろいろな子がいるのよね。
その子達の中には、とうさまや、かあさまの居ない子もいるのよね。」
「ううう・・・・・」
「サンタさんはね、そんな子達から順番に回ってくるのよ。 きっと。
だから、クマさんはそんな子達の一人にプレゼントしたのよ。
サンタさんは、その子達より幸せな奈留には我慢して欲しかったのよ。」
「ううう、でも・・・奈留もクマさんが・・・・ああああん。」
「奈留、奈留はなりぽしとうさまと、かあさまが居るのと、
とうさまもかあさまも居なくてクマさんをプレゼントしてもらえるのと、どちらが良いの。」
「あうううう・・・・・」
「とうさまに肩車してもらえないのよ。 かあさまに抱っこもしてもらえないのよ。」
「ううう・・・でもね。 かあさま。
奈留はね、ずっと前からお願いしていたのよ。
かあさまだって良い子にしていれば、きっとサンタさんがクマさんをプレゼントしてくれるっ
て言ってたよね。」
「そうね。 奈留は良い子よね。
かあさまのお手伝いもしてくれるし、なりぽしとうさまの言いつけも守るものね。
でもね、奈留。 とうさまが何時も言ってるわよね。
『優しい子になるんだよ奈留。 自分よりも人に優しい子にね。』って。
なりぽしとうさまの大好きな奈留は優しい子じゃないのかな。」
「・・・・ぐすっ・・・・奈留は・・・良い子だもん。
優しくなるもん。 なりぽしとうさまに嫌われたくないもん。 あああん〜。」
奈留は麗子の懐に飛び込んで泣いている。
麗子は奈留を抱きしめてなだめている。
寝たふりをしながら様子をうかがっていたものの麗子の母親ぶりには感心した。
あの我侭な麗子が自分の娘にしっかりと愛を注いでいる。
奈留の素直さにも感心した。
この心を持ったまま育って欲しいものだ。
貧乏であるが我が家は幸せらしい。
私自身も頑張らねば。
赤い手袋、マフラー、帽子。
以前よりは、ましになったものの編物の腕前はまだまだの麗子であった。
もうずいぶんと前に書き上げてあったSSです。
なりぽしと麗子の娘、奈留のSS第2作となります。
以前の奈留SSではセリフの無かった奈留も話をしています。
奈留という子が少し解っていただけたでしょうか?
麗子も頑張って母親しているのです。
なりぽしは・・・・やはりダメダメな父親のようです。 貧乏だし・・・・
でも愛の有る家庭、思いやりの有る家庭は築いているようです。
10000HIT記念として引っ張り出してきたSSですが、
これからもなりぽし家のことをよろしくお願いします。