『ぼくのお姉ちゃん』 |
そこつやさんのサイト『そこつやの館』の20万HITの記念として書いたSSです。
『そこつやの館』での公開の時に付けて頂いたBGMが作品にマッチしていました。
こちらでの公開に際して、同じBGMの使用を許してくださったそこつやさんに感謝いたします。
ぼくには、お姉ちゃんがいました。
ぼくにはとっても優しいお姉ちゃんでした。
ぼくの家のお父さんも、お母さんもあまりぼくたちのことをかまってくれません。
ぼくが小さい頃から、ずっとお姉ちゃんがぼくのことを見てくれていました。
ご飯もお姉ちゃんが作ってくれました。
お風呂も一緒に入りました。
眠くなると布団でお話をしてぼくが寝るまで一緒に居てくれました。
ぼくとお姉ちゃんは、いっぱい年が離れているのでお姉ちゃんが時々お母さんと
思える時もありました。
それだけぼくにとってお姉ちゃんは大切な人でした。
昔、お姉ちゃんはもっとおとなしい人でした。
いつもぼくの頭を優しく撫でてくれました。
お姉ちゃんが中学2年生のある日、泣きながら帰ってきたのです。
足の間から血が流れてました。
服もあちこち破れていました。
お姉ちゃんは三日も部屋から出てきませんでした。
その間ずっと泣き声が聞こえていました。
ぼくには何があったのか言ってくれませんでした。
それまでは何があっても全部話してくれたのに・・・・・
四日目の朝、部屋から出てきたお姉ちゃんは以前と違ってました。
とっても明るく元気になっていたのです。
言葉遣いも変わってました。
元気になったのは嬉しいけれど以前とは違うお姉ちゃん。
でもぼくには変わらず優しいお姉ちゃんでした。
そう思っていたのです。
それからお姉ちゃんは、ぼくの晩御飯を作ると遊びに行ってしまうようになりま
した。
毎晩、毎晩、遅くまで遊んでいます。
帰ってこない日も多くなりました。
お風呂にも一緒に入れないし、一緒に寝てもくれなくなりました。
ぼくは我慢しました。
三日間泣いていたお姉ちゃんを思い出したくなかったから。
きっとお姉ちゃんは明るく元気にしていることで、あのことを忘れられるんだと
思ったからです。
元気の為には夜も遊ばないといけないんだと思ったからです。
ある日学校に行ったらぼくはいじめられました。
『おまえの姉ちゃん、Hな姉ちゃん、毎日ホテルに泊まってる〜。』
ぼくはホテルに泊まるのが何故いけないのか知りませんでした。
どうしてそれがHなのかも知りませんでした。
でも大好きなお姉ちゃんの悪口を言う奴は許せません。
ぼくはそいつを拳固で殴りました。
そいつは
『本当のことだよ、ホテルラヴラヴの前で見てみなよ。
お前の姉ちゃん毎晩違う男と…』
泣きながらそう言いました。
続きを言わせないために、もう一発殴ってやりました。
ホテルに泊まることがどういうことか、仲良しのひろゆきくんに教えてもらいま
した。
ぼくはその夜遅くにお家から抜け出してラヴラヴの前に隠れていました。
そして…・・ぼくは泣きながら帰りました。
その日もお姉ちゃんは朝まで帰りませんでした。
ぼくはそれでも知らないふりをしていました。
三日間泣いていたお姉ちゃんを思い出したくなかったから。
悪口を言った奴は、怖くなったのか何も言わなくなりました。
ぼくはおとなしかった頃のお姉ちゃんのことを思い出しながら毎日暮らしていま
した。
この頃家に、髪がぼさぼさで目まで隠れている背の高いお兄ちゃんが訪ねてくる
ようになりました。
お姉ちゃんのことを訪ねてくるのです。
お姉ちゃんは何時もいないのに・・・・・
ぼくが「姉ちゃんはいません。」と言うと帰っていきますが、すぐにまた来ます。
何度も来ます。
とっても変な奴なのに、そのことをお姉ちゃんに言うと何故か喜んでいます。
ある日またラヴラヴから出てくるお姉ちゃんを見ました。
その隣には…あのお兄ちゃんが。
それからいくつかの季節が過ぎました。
お姉ちゃんは休みの前日は必ず家に居ます。
あのお兄ちゃんがデートの誘いに来るのを待っているのです。
デートのある日には朝早くから起きて準備をしています。
ぼくが声をかけても気づきません。
それでもぼくは我慢していました。
三日間泣いていたお姉ちゃんを思い出したくなかったから。
冬が過ぎて春になろうとしていたある日、お姉ちゃんがお風呂からぼくを呼びま
した。
一緒にお風呂に入ろうというのです。
ぼくは嬉しかったです。
ぼくのお姉ちゃんが帰ってきたと思ったからです。
でも…・
「ねえ、わたしさ、今度この家出るから。 剛(ぼくの名前です。)は大きくな
ったし、わたしが居なくても平気だよね。」
お姉ちゃんはそう言いました。
ぼくは返事が出来ませんでした。
そう言ったお姉ちゃんの胸には、キスマークがあったから。
ぼくのお姉ちゃんなのに。
ぼくだけのお姉ちゃんだったのに。
あの中学の時からお姉ちゃんは変わってしまったんだ。
誰がぼくのお姉ちゃんを変えたんだ。
ぼくは我慢できなくなって泣いたんだ。
キスマークのあるお姉ちゃんの胸にすがって泣いたんだ。
お姉ちゃんはやさしくぼくの頭を撫でてくれていただけだった。
おとなしかった頃のお姉ちゃんのように・・・・
春が来てお姉ちゃんはぼくのお姉ちゃんじゃなくなった。
ぼくは我慢することをやめました。
三日間泣いていたお姉ちゃんはもういないから。
ぼくのお姉ちゃんの名前は橘真由美といいました。
あとがき
下級生リレーで初めて自分の順番を終えた夜に夢を見ました。
どんな夢だったかは、起きた時には忘れてしまっていました。
でもとってもせつない想いが胸に残っていました。
そして、真由美の話だったことも・・・・・
このSSを書くことは忘れてしまった夢をなぞるような作業でした。
とてもとてもせつなくて・・・・・・・
自分で作ったSSというより、誰かから見せてもらったお話のような気がします。
真由美の弟くんのせつなさを感じてもらえたら嬉しいです。
読んでくれてありがとうございました。 |
SSトップに戻ります。 |