麗子お嬢様ファンとして名高い、のりたまさんの初のSSです。
主役はもちろん・・・・・・・・                      





終業式も終わり、帰り支度を済ませた麗子は一人帰路につこうとしていた。

靴を履き替え校庭にさしかかった時、麗子は急に立ち眩みのような感覚に襲われた。

視界が回って、頭が・・・・痛い。

(・・・・変だわ・・・・何か・・・・早く家に帰って・・・・。)

先日、軽い風邪をひいて少しばかり体調がすぐれなかったのだが・・・・

軽い風邪だからと思ってたかをくくっていたのだが、まさかここまで悪化するとは・・

麗子は、おぼつかない足取りで、校門へと向かった。

(寒気が・・・・ふらふらする・・・・まっすぐ歩けない・・・・)

数分後、何とか校門まで辿りついたが、先ほどにも増して寒気と目眩が襲ってくる。

(・・・・苦しい・・・・息が・・・・)

麗子はとうとうその場に蹲ってしまった。

肩で息をしながら呼吸を整えようとするが、症状は悪化する一方であった。

その時どこからかひそひそと、小声で話す男女の声がかすかに聞こえてきた。

「先輩、あの人どうしたのかな?しゃがみ込んじゃって。」

「え?あぁ、あの人には関わらないほうがいいですよ。」

「どうしてですか?晴彦先輩。」

「しー!!ぼ、僕の名前を言わないで下さい・・・・聞こえちゃうじゃありませんか!!」

「・・・・え、でも何か苦しそうにしてますよ?体調悪いんじゃ・・・・」

「いいんですよ、あの人は、・・・・さ、早く行きましょう・・・・奈々君。」

「でも・・・・。」

麗子を心配そうに見つめている奈々を無理やり引っ張って、

晴彦は、その場から立ち去ってしまった。

「・・・・全部聞こえてるわよ・・・・。」

麗子はか細い声で呟いた。

(さ、定岡を・・・・電話で・・・・)

定岡を呼ぼうにも麗子の症状は、立ちあがれないほどに悪化していた。

しだいに意識が薄くなって行く・・・・とその時、

「どうしたんだ、麗子?」

誰かが声をかけて来た。

(・・・・誰?)

麗子は声の主を確かめようと、痛む頭を上げて声のする方を見上げた。

「どうしたんだ、麗子?」

再度問いかけてくる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

声色からすると男のようだが、意識が朦朧としているので誰かは判らなかった。

だが、麗子の名前を知っているという事は、やはり卯月学園の生徒なのだろうか。

「た・・・・助け・・・・て・・・・」

とうとう麗子は意識を失って崩れ落ちてしまった。





「ん、んん・・・・」

気が付くと麗子は制服のまま、全く見覚えのない部屋のベッドに寝ていた。

「ここは・・・・何処・・・・?」

呟いて麗子は、辺りをゆっくりと見回した。

こざっぱりした部屋で、壁には卯月学園の女子用の制服が掛けてある。

「うちの生徒の・・・・部屋・・・・?」

しばらくして麗子は自分の額に、何かヒヤッとした感覚がある事に気が付いた。

(・・・・??)

額には濡れタオルが乗せられていた、誰がやってくれたのだろうか?

ガチャッ

扉を開けて一人の少女が、洗面器を片手に部屋に入って来た。

「気がついたみだいだね。」

不機嫌そうに声を掛けると、少女はベッドの横にあった椅子に腰掛けた。

「あ、あなたは・・・・橘 真由美!!」

叫んで麗子はガバッっと飛び起きた。

そう、その少女は麗子の宿敵、橘 真由美だった。

「まだ動かない方がいいよ、かなり熱あるみたいだしね。」

不機嫌そうに頬杖をつきながら真由美が言う。

「か、帰るわ!!」

ほとんど悲鳴に近い声で叫ぶと、麗子はやおら立ちあがろうとした。

「・・・・あっ・・・・」

だが立ちあがろうとした瞬間、激しい目眩に襲われ、また倒れ込んでしまった。

「ほ〜ら、言わんこっちゃない、もう少しじっとしてなって。」

真由美はやれやれと言わんばかりの表情になって、はだけた布団を掛け直した。

「こ、この新藤麗子に・・・・命令・・・・しないで・・・・無礼・・・・よ・・・・。」

麗子は息を乱しながらも、いつも通りの言葉を紡いだ。

「あんた、相変わらず性格悪いね〜、友達出来ない訳分かるよ〜。」

ニッコリと微笑んだ真由美のこめかみには・・・青筋が浮いていた。

「友達なんて・・・・鬱陶しい・・・・だけだわ。」

「あ・・そ・・・。」

ダメだコリャと肩をすくめながらも、真由美は麗子の額の濡れタオルを取り替える。

二人共しばらくの間、何を話す訳でも無く、刻だけが過ぎて行く。

最初に口を開いたのは真由美の方だった。

「しかしさぁ、けんたろうも何考えてるんだろうねぇ?あたしがあんたの事嫌いだって事

知っててあたしの家に連れてくるんだからさ・・・・変な奴だよね・・・・全く・・・・。」

言って真由美は、麗子の額に新しい濡れタオルを乗せる。

「え・・・・けんたろうって・・・・?。」

麗子が思わず聞くと、

「他にいる訳ないでしょ!けんたろうって名前の奴!」

「大体、あたしゃ今日、瑞穂達とカラオケに行く予定だったのに・・・・・。」

濡れタオルを洗面器の中でチャプチャプ回しながらブツブツと呟いている。

「けんたろうのせいでせっかくの一日がおじゃんだよ・・・・何が悲しくてあんたの看病なんか

・・・・ま、今度カラオケオゴってくれるていうから別にいいけどさ・・・・。」

「・・・・だ、誰もあなたに看病して欲しいなんて頼んでな・・・・」

麗子が言いかけた時、ノックの音と伴に白いヘアバンドをした少女、

結城 瑞穂がお粥を乗せたお盆を抱えて部屋に入って来た。





「麗子さんの具合、どう?真由美ちゃん。」

お盆を机の上に置いて、真由美に聞く。

「ごらんの通りだよ、瑞穂。」

真由美は、ベッドの方を指差した。

「あ、麗子さん、気が付いたんだ、大丈夫?熱は下がった?。」

心配そうな表情で瑞穂は、麗子の額に自分の手を当てた。

「う〜ん、まだ熱が下がらないみたい・・・・。」

「あれ?ところで、みこは?」

ポテトチップの袋を開けながら、真由美が瑞穂に聞く。

「風邪薬を買いに駅前の薬局まで行ってくれてるの、もうすぐ帰ってくると思うわ。」

「ふ〜ん・・・・ほっかぁ・・・・。」

真由美は、何故か納得したような表情でポリポリとポテトチップをかじっている。

「ゆ、結城さん・・・・あなた・・・・どうしてここに?」

いきなりの事に動揺し、硬直していた麗子が、かすれた声で瑞穂に問いかける。

「え?えぇ、今日、みこちゃんと真由美ちゃんと私で、本当はカラオケに行く予定だったの。

出かける前に、真由美ちゃんの家でちょっとお茶してたら・・・・。」

そう答え、瑞穂はベッドの横にちょこんと座った。

「・・・・・・・・・・・・。」

何を言ったらいいか分からず、麗子が、少し困惑したような表情をしていると、

「でもびっくりしたわ。」

瑞穂が言った。

「え?」

「だってけんたろう君たらバイクの後ろにぐったりした麗子さんを乗せて、

真由美ちゃんの家に駆け込んで来るんだもの・・・・驚いちゃった。」

「あいつはクレイジーたからね―、まっ昼間に無免許でバイク乗ってくるか?普通。」

「えぇ!?けんたろう君、無免許だったの!!」

無免許という言葉に驚いて、瑞穂が驚きの声を上げる。

「そ、無免許、たまたまその時通りかかった友達に借りたんだと。」

真由美は、ポテトチップをかじりながらぽそりと呟いた。

「そう・・・・だったの・・・・。」

言って麗子は天井を見つめた。

「そうですよぉ・・・・麗子さぁん。」

びっくぅ!!

いきなりの背後からの声に驚いて、三人は30センチばかり飛びあがった。

後ろを振り向くと、そこには風邪薬と水の入ったコップを持った神山 みこが立っていた。

「み、みみみこ!!」

真由美が椅子からずり落ちた。

「か、神山さん!。」

と、麗子、

「あ〜ビックリしたぁ・・・・。」

と、これは、真由美、

「み、みこちゃん、い、何時からそこにいたの?」

瑞穂が額の汗をハンカチでフキフキしながら聞くと、

「何時からですかぁ・・・・そうですねぇ〜」

みこは右手の人差し指を、こめかみの所へ持って行き、しばし宙を見上げて考えて・・・・

・・・・・・・・三十秒経過、

「忘れちゃいましたぁ。」

言って、みこはにっこり微笑んだ。

だがしゃあ!!

崩れ落ちる三人。

「そ、それはそうと・・・・随分早かったじゃん・・・・みこ。」

真由美は倒れた椅子を直しながら、聞いた。

「そうなんですぅ・・・・晴彦さんのぉ・・・・お陰でぇ・・・・助かりましたぁ。」

「晴彦さんが?!」

晴彦という名前を耳にして、麗子の表情が一瞬、険しくなる。

「晴彦君がどうかしたの?。」

と、今度は瑞穂。

「実はですねぇ・・・・・。」

話しをまとめると、こういういきさつのようだ。

みこは、麗子の為の風邪薬を買いに駅前の薬局まで走っていたのだが、

やはりそこは女の子、体力の限界がある、あまりにも夢中に走りすぎて、

途中でダウンしてしまったらしい。息を切らせて蹲ってしまっていた所に偶然、、

佐竹 晴彦の乗った車が通りかかり、みこが事情を話したところ一つ返事で

薬局まて乗せて行ってくれたらしい。

「晴彦さんってぇ・・・・優しいぃ・・・・人ですよねぇ・・・・・・・

帰りもぉ・・・・送ってぇ・・・・くれたんですよぉ・・・・晴彦さん。」

みこは、両手を胸の所で組んで感動している。

「いつも優しいよね、晴彦君って。」

瑞穂もにこにこしながら言った。

「え〜っ、そっかなぁ〜っ、あたしは下心見え見えにしか感じないんだけどな〜っ。」

真由美は、何か納得出来ないといった表情でそう言った。

「・・・・最低・・・・。」

麗子が険しい表情のまま、小声で呟く。

「えっ?」

瑞穂と真由美が驚いた表情で麗子を見た。

「な、何でもないわ、ただの独り言よ、・・・・あ、そうそう、あなたたち。」

麗子は、何かを思い出したかのように、ベッドの近くにあった自分のカバンを手に取り、

そして一束の書類のような物を取り出し、何やらカリカリと書き込んでいる。

「??」

三人が顔を見合わせていると、麗子は一枚の紙を切り取ると、三人の前に差し出した。

小切手であった、数字の所、1の後ろに0が6つ書き込んである、そして・・・・

「一応、報酬は渡しておくわ、でも、これを受け取ったら今回の事は忘れて頂戴、

そして二度と私に付きまとわないで下さる・・・・さぁ、受け取りなさい。」

言って麗子は三人の前に小切手を差し出した。

差し出された小切手を見つめたまま動かない三人。

「どうしたの、受け取りなさい。 一般庶民のあなた達でも役に立つこともあるのね。」

「麗子さん・・・・本気で言ってるの?」

瑞穂が俯いたまま、麗子に問う、すると

「私は、働いた分の報酬は払うと言ったまでよ、この額じゃ不満かしら?」

「そういう問題じゃなくて・・・・」

すると麗子は瑞穂の言葉を遮って、

「そう、分かったわ、この金額たと三等分は難しいですものね、・・・・あ、そうそう

四等分だったわね、バイクで私をここに連れてきたあの男にも・・・・」

瑞穂の小さな拳にギュッと力が入る。

「もうやめてよ!!」

ぱぁん!

新らしい小切手に書き込もうと手を伸ばした麗子から小切手を取り上げようと

体を乗り出した瑞穂だったが、それよりも早く、真由美の手が麗子の頬を打った。

初めて頬を叩かれた痛みに、麗子はしばし呆然とするが、やがて

「うっ・・・・何をするの、親にすら叩かれたことの無い、この私に・・・」

途中まで言いかけてその先を言わなかった、いや言えなかった。

真由美が、かつて見たことのない、冷たい目で麗子を見ていたからだ。

「麗子、あんた・・・・人の優しさを何だと思ってるんだい。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「お金で買えないものだってあるのよ、麗子さん。」

瑞穂も、悲しそうな表情で麗子に訴えかける。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

麗子は頬を抑えたまま、俯くばかりだった。

「あんた・・・・そんなだから何時までも、友達が出来ないんだよ。」

「そうさせたのはあなた達の方じゃない!」

麗子は声を張り上げた。

「昔からそうだった!普段は冷たいくせに!都合の良い時だけ私をもてはやして!

・・・・用が済んだら・・・・人をどうでもいい様に扱って・・・・。」

ほとんど涙声だ、くやし涙が出そうになるのを必死に堪える。

「麗子・・・・あのさ・・・・」

真由美が何かを言おうとしたが、麗子はそれをを遮って、

「あなた達が望んだ事じゃない!・・・・もう・・・・みんな大嫌い!!」

初めて取り乱す麗子の姿を目の当たりにして驚愕した三人は何も言えずにいた。

しばしの間、

「そんな人間ばかりじゃないと思うわ・・・・麗子さん。」

瑞穂が言った。

「分かったような事・・・・言わないで・・・・あなたに何が分かるっていうのよ。」

麗子は涙が出そうになるのを必死に堪えている。

その時、今まで後ろで黙っていたみこが初めて口を開いた。

「麗子さぁん」

「私はぁ・・・・瑞穂ちゃんやぁ、・・・・真由美ちゃんみたいにぃ・・・・

うまく言えませんがぁ・・・・少しだけぇ・・・・聞いてくれますかぁ・・・・。」

みこは麗子の返事を待った。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

麗子の沈黙を肯定と受け止めて、みこが語り始める。

「麗子さぁん・・・・・・・・私は中学生の時にぃ・・・・この喋り方のせいでぇ・・・・

クラスのみんなとなかなか解け込めなくてぇ・・・・

いつも一人っきりでぇ・・・・凄く寂しい時があったんですよぉ・・・・。」

「・・・・え・・・・?」

初めて聞くみこの過去に麗子は、驚きの表情を隠せないでいた。

みこは構わず、話し続ける。

「でもそんな時にぃ・・・・ニ人の女の子がぁ・・・・お弁当の時間、私の傍に来てぇ・・・・

言ったんですぅ・・・・お弁当一緒に食べよって・・・・瑞穂さんと真由美さんでしたぁ・・・

私はいいって断ったんですがぁ・・・・瑞穂さんと真由美さんは私を引っ張ってぇ・・・・

・・・・みんなの所に連れて行ってしまったんですぅ・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「最初はぁ・・・・嫌で嫌で仕方が無かったんですがぁ・・・・話しているうちにぃ・・・・

みんな優しい人だという事がぁ・・・・分かったんですぅ・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「だんだんみんなと仲良くなってぇ・・・・遊びに行く様になったんですがぁ・・・・

門限が早い私はぁ・・・・いつもみんなよりぃ・・・・早く帰らなくてはいけませんでしたぁ。

でもある時ぃ・・・・遊びに行った帰りにぃ・・・・事故で電車が止まってしまってぇ・・・・

門限を一時間も過ぎてしまった事があったんですぅ・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「お父様に怒られるのが怖くてぇ・・・・私が家の前で立ち尽くしていた時にぃ・・・・

瑞穂さんと真由美さんがぁ・・・・心配して来てくれて、一緒に謝ってくれたんですぅ。

最初は興奮していた父でしたがぁ・・・・瑞穂さんと真由美さんがぁ・・・・

必死に謝ってくれたのでぇ・・・・最後には納得して許してくれたんですぅ・・・・・。

麗子さぁん・・・・・世の中ぁ・・・・色々な人がいるんですよぉ・・・・優しい人・・・・優しく無い人・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「私達を信じてくれませんかぁ・・・?私達が最初の友達じゃぁ・・・駄目ですかぁ・・・?」

言ってみこは麗子の瞳をじっと見つめた。

麗子は、しばらく何も答えずに俯いていたが・・・・・やがて・・・・・

「・・・・あなた達・・・・変わってるわ・・・・あなた達を見てると

・・・・本当に・・・・あなた達に優しくされると・・・・・」

一筋の涙が、麗子の頬を伝って落ちる。

「・・・・・・・私・・・・・・・馬鹿みたい・・・・・・・グシュッ・・・・。」





「麗子さん・・・・泣き疲れて・・・・寝ちゃったみたいね・・・・寝顔・・・・可愛いね。」

瑞穂が、覗き込んでにっこり微笑む。

(は、恥ずかしいから寝たふりをしてるだけよ・・・・泣いちゃったし)

「本当にぃ・・・・可愛いぃ・・・・寝顔ですねぇ・・・・麗子さん・・・・。」

みこもにこにこしながら答える。

「これで性格も見かけと同じくらい、良ければいいんだけどね〜。」

真由美も、苦笑しながらうなずく。

(・・・・お、大きなお世話よ!わ、私は完璧だわ!)

「でもけんたろう君・・・・何で真由美ちゃんの家に麗子さんを連れてきたのかしら?

・・・・麗子さんの家って卯月学園のすぐ傍の筈でしょ?」

瑞穂が首を傾げていると、真由美は、

「あぁ、その事?・・・・けんたろうの奴、麗子の住所も電話番号も知らないんだってさ、

生徒名簿も無くしたらしくて・・・それに、あんまり話した事も無いからって言ってたしね、

なにせ急な事だったんで、近くの知り合いの家を回ってたらしいんだけど、

みんな留守で、そしたら、たまたま家にいたあたしらが貧乏クジを引いたってわけ。」

(び、貧乏クジって・・・・お、覚えてなさい・・・・橘 真由美!)

「普通ぅ・・・・病院にぃ・・・・連れて行きますよねぇ・・・・。」

みこは、右手の人差し指を、こめかみに当てて考えている。

「頭・・・・悪いからね・・・・あいつ。」

真由美は、くっくっくっとお腹を抑えながら笑いを噛み殺していたが不意に、

「でも・・・・いい奴だよね・・・・けんたろうって・・・・。」

真由美は、少し寂しそうに視線を落とした。

あいつ・・・・ほとんど話した事も無い人間をさ・・・・ただのクラスメイトだって理由だけで

助けようと必死になって・・・やっぱカッコイイよ、アイツ、モテる訳だ!」

「真由美ちゃん・・・・あなた・・・・まさか・・・・。」

瑞穂が問う。

「あはははは、な〜んてね、別にいいんだ、あたしは、アイツとはもう

腐れ縁みたいなモンだし、それにアイツ、ヒマな時、使えるしね、でも・・・・。」

「でも?」

瑞穂が再度、問う。

「ちょっと・・・・羨ましかったかな・・・・なん〜て・・・・麗子が・・・・えへへへ。」

真由美は、照れくさそうに笑って見せた。

「・・・・真由美ちゃん・・・・。」

「私もぉ・・・・けんたろうさん・・・・いい人だとぉ・・・・思いますぅ・・・・。」

(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

「さ、二人共もう遅いから帰った方がいいよ、みこも門限の時間とっくに過ぎてるよ、

麗子の家にはあたしが連絡しとくからさ、さあさあ、帰った帰った!」

三人が時計を見ると、5時半をとっくに回っていた。

「はうぅぅ・・・・またぁ・・・・外出禁止にぃ・・・・なってぇ・・・・しまいますぅ・・・・。」

みこは、少し悲しそうに呟いた。

(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

「大丈夫、私が一緒に行って謝ってあげるから・・・・ね?」

瑞穂が言ってみこを元気付ける、とその時、

「私からもお願いするわ、結城さん。」

麗子が起き上がった。

「あ、起こしちゃった?ごめんなさい、麗子さん。」

瑞穂が慌てていると、

「あのね・・・・ただでさえデリケートなこの私が、こう耳元でキャーキャーやられたら、

寝れるものも寝れる訳ないじゃない・・・・全く・・・・あなた達ったら・・・・。」

そしてまた、麗子の罵詈雑言の嵐が始まると思っていた三人だったが・・・・。

「い・・・・一応・・・・今日のお礼と・・・さっきの謝罪はしておくわ・・・・三人共・・・・。」

そう言って、麗子は、そそくさと布団に潜ってしまった。

「・・・・え?」

三人の目が点になった。

既に麗子は布団に潜ってしまっている。

その光景をしばしポカ〜ンと眺めていた三人だったが、やがて、

「うん、分かった、お休みなさい、麗子さん。」

「あ、そうそう、お粥作ったの、麗子さん食べて、もう冷めちゃったけど、

お腹が空いたら食べてね、今回は自信作だから美味しいわよ♪」

瑞穂が微笑んでいる。

「あのぉ〜麗子さぁ〜ん・・・・お薬ぃ・・・、ちゃんとぉ・・・飲んで下さいねぇ・・・・。」

みこも嬉しそうに笑った。

「もうちょっと素直になれよな・・・・麗子・・・・。」

真由美も苦笑している。

「・・・・電気・・・・消すよ・・・・麗子・・・・あたしは隣にいるから、何かあったら呼びな。」

そして部屋の灯りが落とされた。





誰もいなくなった暗い部屋で一人、麗子は天井を見つめる。

天井を見つめながら麗子は色々な事を考えていた。

麗子はいつも一人ぼっちだった・・・・学校の授業、遠足、修学旅行、文化祭、体育祭、

クラスで班を作って行動する時だって、いつも自分だけ最後まで、班が決まらなかった。

下校時、駄菓子屋に行く時だけの友達・・・・みんなの分の支払いはいつも自分だった。

中学の時、始めて出来た恋人も、自分が財閥の娘だと知ったとたんに人が変わった。

・・・・・・・・・・・・・・・良い思い出なんてほとんど無いに等しかった。

・・・・・・・・・そして・・・・・・・・・今日あった出来事・・・・。

初めて私を真剣に怒った・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・橘 真由美

誰とも分け隔てなく優しく接する・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・結城 瑞穂

話し方とは裏腹にしっかりした一面を持つ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・神山 みこ

・・・・・・・・彼女等とだったら上手く・・・・・・・・やっていけるかもしれない・・・・・・・・

そして・・・・・・・・・・・・・・・私を助けてくれた・・・・・・・・・・・・・・・・・・けんたろう・・・・

・・・・・・・・私・・・・・・・・・・変われるかな・・・・・・・・・

もう・・・・・・・・・眠い・・・・・・・・・おやす・・・・・・・・


いつしか麗子は深い眠りに落ちて・・・・

「ねぇねぇ、麗子。」

いきなり部屋のドアが空いて、真由美が入って来た。

「な、何よ。」

いきなりのことに動揺しつつも、麗子は勤めて平静を保って答えた。

「やっぱさ・・・・さっきの小切手・・・・あたしにくんない?」

エヘへと頭をポリポリと掻きながら真由美は麗子にチョウダイのポーズをとる。

「あ、あなたね・・・・さっきはさんざんエラそうに・・・・しかも私を殴っといて・・・・。」

・・・・こめかみと握り拳に青スジを浮かべて麗子。

「いやぁ〜、後から色々考えたんだけどさ〜、やっぱくれるって言われたモンは

貰っとこっかな〜なんて・・・・欲しいモン結構あるんだよね〜、

殴った事は謝るからさ〜、ネ、頂戴♪神様、仏様、麗子お嬢様ぁ〜♪」

「あ、あなた・・・・今更おだてたって・・・・ぜ、絶対イヤ!誰があなたなんかに!」

「何よ〜みみっちいわねぇ〜!天下の新藤麗子様ともあろうお方が・・・・

一度あげるって言ったんだから別にイイじゃないよぉ〜!減るモンでも無し!」

「減るわよ!」

ぼむっ!

麗子が投げた枕は、真由美の顔面にヒットした。

「イッタイワネ〜・・・・やったな〜・・・・・この乳がデカいだけの性格ブス!」

真由美もお返しとばかりに麗子に枕を投げ返す。

ばふっ!

今度は麗子のガンメンに枕が直撃する。

「こ、この新藤麗子様の顔に枕を投げ付けるとは・・・・・このペチャパイ。」

「何ですって〜!」

「何よ、やる気!」

きゃあ、きゃあ、きゃあ、きゃあ、きゃあ

かくして、この二人の枕投げ戦争は朝方まで延々と続くのであった。

勿論、病人と同じ部屋に一晩中居た真由美が次の日、寝込んだのは言うまでも無い。

麗子の方は、枕投げで汗をかいたせいか・・・・すっかり元気に復活を果たしたようだ。
                                              
これからの麗子の成長を期待する今日この頃である。



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BGM: 「Sensual」 by ナサさん