麗子お嬢様ファンとして名高い、のりたまさんの第二作です。

第一章
1
日曜日
麗子は朝からなぜか機嫌が良かった。
「お早う、良い天気ね。」
麗子は、庭でリムジンを洗っている定岡の背中に声をかけた。
びくぅっ!!
定岡の肩が一瞬震える。
「!!お・・・お早う御座います、お嬢様。」
麗子の様子が、普段と違うことに動揺しつつ、何とか平静を保ちながら定岡は答えた。
「出かけてくるわ。」
「は、はい、かしこまりました!!、すぐに終わらせますので。」
定岡は慌てて、リムジンの拭き取りにかかり始める。
「今日はいいわ。」
「はい?」
予期せぬ麗子の言葉に、定岡の目が点になる。
「今日は歩いて行くから。」
そう定岡に言い残すと、麗子は通用門に向かって歩いて行った。
定岡は、まだ状況が理解出来てないのか、その後ろ姿を見送りながら
「・・・・・・・・行ってらっしゃいませ・・・・・・・・え?」
雑巾を片手に、呆然と立ち尽くしていた。
2
通用門を出た麗子は、卯月町駅へ向かって歩き出した。
途中、道に迷ったり、犬に吠えられたりと障害はあったが、
約束した時間前に、何とか待ち合わせ場所まで辿り着いた。
「・・・・・ちょっと早く来すぎたわね。」
待ち合わせの12時より、30分も早く着いてしまったようだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・退屈ね。」
「・・・・・足が疲れたわ。」
普段から歩く事に慣れてないせいか、足がジンジンする。
麗子は、何処か休める場所はないかと辺りを見回した。
タイミング良く、先程まで近くのベンチに座っていたサラリーマンが
いなくなっていたので、そこで少し休む事にした。
ベンチに腰を下ろし、疲れた足を休ませる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・?」
もうすぐクリスマスだからだろうか、麗子は周囲にやたらカップルが多い事に気付いた。
何処もかしこも、カップルの雨アラレ・・・・・・
「・・・・・うっとおしいわね。」
自分も男と待ち合わせしている事を棚に上げ、呟く。
そしてその直後、麗子は心臓が飛び出しそうになるような光景を目の当たりにした。
隣に座っているカップルが、なななんと・・・キ・キスをしているではありませんか!!
しかも・・・・舌を・・・・・・
恋愛に対して免疫が全く無い麗子にとって、この光景は刺激が強すぎたようだ。
目を背けようとようとしたが、金縛りにあったかのように体が固まってしまって動けない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
だがその時、救いの手が差し伸べられた。
「アナタハ・・・カミヲ・・・シンジマスカ?」
宗教の勧誘だろうか・・・カタカナ言葉の外人が話しかけて来た。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・はっ?!」
その外人の言葉で麗子は我に返った。
「シンジマスカ?」
再度、問いかけて来る。
「私は新藤麗子よ、私の方が皆に崇拝されるべきだわ。」
麗子がそう答えると、その男はなぜか?不思議そうな顔をしながら立ち去って行った。
・・・・・・・世の中、色んな人がいるからこそ・・・・・・面白い。
ちょうどその時、駅ビルの時計が12時を知らせるメロディーを奏でた。
まだ、足のダルさが残ってはいるが、麗子は、本来の待ち合わせの場所に戻ろうとする。
「よう!」
聞き覚えのある声に後ろから呼び止められ、麗子は振り返る。
そこにはいつもと同じ、不適な笑みを浮かべている健太郎の姿があった。
今まで憂鬱そうにしていた麗子の表情が嘘のようにぱあっと明るくなる。
だが、それもほんの一瞬の事だった、すぐに麗子本来?の表情に戻り罵声を浴びせる。
「あなた、一般庶民の分際で、この私を30分も待たせるなんて100万年早くってよ!」
とげとげしく言い放つ。
「何ぃ、俺に早く会いたくて30分も早く来ちゃったのぉ〜。」
明らかにからかっている、が麗子も負けずに言い返す。
「知り合いの耳鼻科を紹介するわ、それともあなたの場合、獣医の方が良いかしら。」
「何ぃ!!」
「何よ!!」
しばらく睨み合いが続く・・・・・・が、先に折れたのは健太郎の方だった。
「・・・・・・ちっ!・・・今日はミラクル座だったよな・・・行こうぜ。」
言って健太郎は足早に歩き出した。
「のぞむところだわ。」
麗子も負けじと後を追う。
駅のロータリーを抜け、踏切を渡った所にミラクル座はあった。
そして健太郎は、現在公開している映画を確かめる。
「え〜っと・・・・今やってる映画は・・・・・・・」
「鉄道員とタイタニックだな・・・・って事は当然、鉄道員だよな」
言って健太郎が切符を買いに行こうとした時、麗子が抗議の声を上げた。
「ちょっと!勝手に決めないで!どうしてこの私がオヤジばかり
出演している映画を見なければならないのかしら、タイタニックにして頂戴。」
大ファンである高倉健をオヤジ呼ばわりされた健太郎は、
今の言葉が聞き捨てならなかったのか、言い返す。
「何言ってんだよ!不器用な男、高倉健、これが最高なんだ!」
しかし、麗子も負けてはいない、麗子独特の腕組みポーズをとり、
「何を言ってるのかしら?スウィーでゴージャストなディカプリオに決まってるじゃない!」
無意味に胸を張って言い返す。
「ま、教養の無いあなたに、洋画の良さが理解出来るとは思えませんから、
お願いします、って泣いて頼むのだったら、鉄道員にしてあげても良くってよ。」
追い打ちをかける麗子。
「何ぃ!!」
「何よ!!」
そしてまた、喧嘩が始まった。
しばらく後、双方とも悪口雑言のネタが尽きかけた頃、
「・・・・・・・・・・・麗子。」
「・・・・・・・・・・・何よ。」
「俺達は今日、デートしてるんじゃ無い、勝負しに来てるんだよな?」
健太郎が問う。
「!!」
麗子の表情が一瞬曇る、だが、
「そ、その通りだわ、誰があなたなんかとデートなんかするもんですか。」
意地を張って言い返す。
「じゃあ、そこのゲーセンで勝負して勝った方の映画を見る、そうしようぜ!」
「その勝負、受けて立つわ、負けても泣き言を言わないでちょうだい!」
「けっ、お前こそ!負けても言い訳は無しだからな!」
などと言い合いながら、二人は近くのゲームセンター(スターシップ)に向かった。
「あれ?・・・・・麗子?」
人ごみの中をしばらく歩いていると、健太郎は、
隣を歩いているはずの麗子の姿が見当たらない事に気が付いた。
「・・・・・・・はぐれたか・・・・・・ま、スターシップまでは一本道だし、大丈夫だろ。」
などと呟き、健太郎はスターシップまで先に行って待つ事にした。
数十分後
「・・・・・・・・・・遅い。」
ミラクル座からスターシップまでは、ほんの五分たらずの距離なのだが、
いつまで経っても麗子が現れる気配がない。
「まさか・・・・この距離で・・・・ね。」
もしやと思い、健太郎はミラクル座まで戻ってみると・・・・
「あ・・・・・・・・・いた。」
そこには、ムスッとした表情で突っ立っている麗子の姿があった。
「何やってんだよ、こんな所で」
言って健太郎が近づくと、麗子は、一瞬安堵の表情を浮かべる、だが
「あ、あなたが迷子になったから、見通しの良い場所で待ってたのよ、だいたい・・・・。」
あさっての方向を向きながら、必死に悪態をついている。
どうやら自分の方が迷子になったという事実を認めたくないらしい。
「・・・・・お前なぁ・・・・・はぁ・・」
途中まで言いかけ、溜息をついた。
「・・・・・・・・・・・何よ。」
健太郎はやれやれといった表情で
「分かった分かった、じゃあ行くぞ。」
やおら麗子の手を引っ張って歩き出す。
「ち、ちょっと、手を引っ張らないでよ!ひ、一人で歩けるってば!」
耳たぶまで真っ赤に染めて麗子が言う。
「うるさい、黙ってついて来い、またはぐれたら面倒だ。」
「・・・・・・・私に命令しないで。」
「黙らないと置いて行くぞ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・よろしい。」
3
帰り道
すっかり暗くなった夜道を歩きながら、二人は今日のデートの余韻に浸っていた。
「・・・・・・あなたが悪いのよ。」
憮然とした表情で麗子は言った。
「何の事だよ?」
「あなたがもたもたしてるから、映画が見れなかったと言ってるのよ。」
もとい、反省会、兼、罪のなすり付け合いをしていた。
「何言ってんだよ、麗子が迷子になったりしなければ充分間に合っただろうが。」
健太郎も、負けじと言い返す。
「冗談じゃないわ、迷子になったのはあなたの方じゃなくって?
あなたが私を見つけやすいように、この寒空の中、何十分も
映画館の前で待っててさしあげたのをお忘れかしら?」
「よく言うぜ、それに第一、麗子がプリクラを撮るためだけにわざわざ行き付けの
美容院まで行ったりしなければ、何とか最終の上映時間には間に合ったんだよ!」
健太郎が言い返す、だが、麗子はもまた、お得意の腕組みポーズをとって応戦してくる。
「この新藤麗子をそんじょそこらの女と一緒にして欲しくないわね、たかがプリクラ一枚
の事でも、身だしなみには最善の注意を払う、これが新藤家の掟よ。」
「はいはい、そうですか。」
「今日は私の勝ちね。」
「はぁ?何寝言ってんだよ、迷子ちゃんが!」
「なんですって!」
・・・・・・・・こうして二人の勝負はまだまだ続くのであった。
一章 完
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BGM: 「Sensual」 by ナサさん
