なるるな 
はわいこなバージョン

   奈留は麗子お嬢様となりぽしの娘。  
   瑠菜はいずみと龍之介の娘。
   瑠菜は奈留よりも一つ年下です。
   二人とも、もう母親達が『チチ戦争』をしていた頃と同じお年頃。

   今日も、いずみの家に麗子と奈留が遊びに来ています。


ねえねえ、瑠菜ちゃん、こんな物が出てきたよ」
 一番下の引き出しを、すっぽり外したらその下に埃にまみれたビデオテープが1本あった。
「何だろうね、奈留ちゃん。あれ? ラベルに何か書いてある」
「何々。見て後悔するか、見ないで後悔するか。byハワイコナ@こうのとり……」
 見合った2人は、にんまりと笑った。
「そりゃねえ、同じ後悔するなら、見て後悔するわよねえ」
「そうそう」
 手で埃を払った瑠菜が、ビデオデッキにテープを入れた。


『なりぽし、起きて。朝よ』
『う〜ん、麗子……』
 テープの中の男性は女性の胸に顔を埋めた。女性の胸は剥き出しだった。
『こぉら、いいかげんに起きなさい。あっ、だめよ、なりぽしったら……』
 女性の声が艶めかしいものに変わった。
「ねえ、瑠菜ちゃん。これって、あだるとびでお、って言うんじゃ……」
「だね。なりぽしとか麗子って言ってたね」
『部屋に戻らないと、お父さまに見つかるわ』
『麗子が悪いんですぅ。天使のように美しく、悪魔のように妖しくて、妖精のように儚くて、なりぽしを狂わせるんですぅ』
「小父さんってイタリア系だったっけ? この歯の浮くような台詞、恥ずかしくないのかなぁ」
「プリンセアさん、大空寺のおば様も、こうやって墜としたのかなぁ」
「奈留ちゃん」
「なあに瑠菜ちゃん」
「この様子だと、知らない弟とか妹がいるかもね」
「……そうだね」
『ねえ、なりぽし……』
『なんだい麗子……』
「麗子だって。今の父さまからは想像つかないわ」
『夢を見たの。私のお腹の中で、私たちが出会ってひとつになった夢なの。きっと正夢だわ』
 この台詞にビックリしたのはテープの中の男性だけではなかった。
「奈留ちゃんの誕生日って、○月△日だったよね」
「ビデオの日付は、☆月※日。10ヶ月より前だから……ほっ、違うみたい。良かった」
「奈留ちゃん、違うわよ」
「え?」
「あのね、10月10日というのは少し違うの。本当は9ヶ月と少しで生まれるの」
「そうなの?」
「そ、そのう……。受精からして医学的に妊娠第2週目くらいらしいの。それに第何週ってのは、1月28日計算なの」
「普通は1月30日だから、当然ズレが出るね。ということは、この日に私が、できちゃったんだ」
 画面は粗い物に変わっていた。ザーとノイズ音が出ているだけだった。
「ふう。聞いていたけど、改めて私はできちゃったんだって証拠を見せられると、ショックだわ」
「でも、いったい誰がこれを撮ったのかなぁ?」
 2人は首を傾げていた。


「瑠菜ちゃんは、どうやって生まれたの?」
「お母さんは、私を一生懸命作ったって言ってたわ」
「いいなぁ。赤ちゃんは、できちゃったじゃいけないわ。そうよ、赤ちゃんは作るものなのよ!!」
 奈留の拳は力強く握られていた。
「でも、場所がねえ」
「場所なんて、どこでもいいじゃない」
「そうぉ? ボロアパートで煎餅布団の上で毎夜励んだって。それって、ちっともロマンチックじゃないよ」
 恋に恋する17歳の乙女としては、いかにも現実的というか、親の所行に納得できないものがあるのかもしれない。
「「やっぱり白馬に乗った王子様が、愛の巣で抱いてくれないと……」」
 奇しくも2人の意見は一致したようだ。
 この時、後ろを振り向いて見るべきだったかもしれない。
「(おい、麗子)」
「(何よ、いずみさん)」
 しゃべり方があの頃に戻っていた。
「(私たち、娘にひどいことを言われていないか)」
「(そうよね。でも、返す言葉がないわ)」
「(悔しいな)」
「(ええ、悔しいわ)」
 奈留に瑠菜。2人とも逞しく生きている。母親を乗り越えるのも、そう遠い日のことではないようだ。




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