東北の片田舎 ・・一人の外国人女性が大きなカバンを持って歩いている。 エレイン・ギブソン21歳。 日本暮らしの長い英国人女性・・メイド(さん)としてある屋敷で働いている。 このたび、主の命で数日間なりぽし家へ・・ 麗子の家事の様子を見るという名目だが、実はお二人の生活を 主人の友人へレポートするという意味合いが濃かったりする。 格別美人というわけではないものの、栗毛がかった髪に紺色のエプロンドレスを纏った彼女は こののどかな風景に浮きまくっている・・ 「旦那様があんなお約束をなさるから・・でも、二人のご様子も気になるし。」 仙台空港から、30分ほどタクシーで走ったとある街、 「でも、お住まいのアパートはどこなんでしょう?」 バス停のターミナルはあるもののそこからはさっぱり解らない様子。 なりぽしから届いたと思われるFAXの地図は、田畑の中に×印がついているだけ・・ 途方に迷っていると、携帯電話の音が、 ピリリリッ♪ 『はい・・あ、旦那様ですか?・・え?・・そうだったのですか、はい、大丈夫です、ええ。』 電話を切ると、溜息を一つ、そしてペンを取りだして地図に書き足す、 地図は間違っていたようだ、エレインが地図の下の方を見ると<東北支社御中>等と書いてある、 「・・お仕事で届いたファックスを、間違えて送っちゃったのかしら・・?」
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作者Rサイト3000踏み記念SS+『麗子となりぽしのお部屋』3000HIT記念(?)
それから指定された場所まで2〜3分。 脇のポストを覗くと『なりぽし』の名・・間違いない。 部屋の前に行ってみると、 なにやら麗子の声に混じって、騒がしい音が聞こえてくる。 「なりぽしっ、そのガラクタを早くしまって頂戴、もうそろそろ来る頃よ!」 「は、はいぃぃっっ、ですがお嬢さん、これはガラクタではなくてなりぽしの大切な・・」 「そんなのはどうでもいいから早く!その押入の中にでも詰め込んでっ。」 「あうぅぅぅ・・」 取り込み中と察し、しばらく待ってみてからチャイムを鳴らす。 ピンポーン♪ その音に反応するかの如く、ガラッ!バシッ!というふすまを閉めたかのような大きな音が。 「エレインさん?」どこか奥から聞こえる麗子の声。 「はぁい、そうです。お取り込み中でしょうか?」 「い、いいえ、そんなことなくってよ、鍵は開いているからどうぞお入りになって。」 「はい・・ではお邪魔いたします。」 中に入ると押入に寄りかかった麗子の姿が。 「あ、あの麗子さん?どうなさったのですか?」 「ううん、なんでもなくってよ、気になさらないで。」 エレインが押入のふすまを見るとやや膨らんでいるように見えた。 「・・?」 そして、更に下へ目をやるとふすまの内側を突き破って、黒い筒のような物が。 ・・銃身のようにも見えるけれど・・まさか・・ 麗子は相変わらず寄りかかったまま。 「あの、麗子さん・・ご懐妊なさったそうですから、椅子にでもおかけになってらした方が。」 「ええ、でもまだ大丈夫よ、2ヶ月だから。」 「いいえ、極力安静になさっていらした方が宜しいですわ、さ、どうぞ。」 麗子の手を引いて、椅子へと導く。 麗子もやや諦めた様子で、押入を見やりながらそれに従う・・すると、 バリッ!ドサドサッ・・ドシンッ! モデルガンやプラモデルとおぼしき物と、『なりぽし』がふすまを突き破って雪崩れ落ちてくる。 「あっ!あううぅぅ・・いたたっ。あっ、エレインさん!?こ、これはどうもぉ、いたたっ・・」 額に汗しながら、一家の大黒柱はそう言って横たわっている。 いつもこんな事をしていて、良く体が持つわね・・と考えさせられずにはいられない光景。 そして同時に、仕事が出来たことも確かなようだ。 これがなりぽし家のいつもの光景? 「す、すみません〜、ご免なさいぃぃ。」 横たわったまま答えるなりぽし・・やはりいつものことのようだ。 「さてとっ、先ずはこれを片づけないといけませんねっ。」 すると麗子が腕組みをしながら言った。 「・・なりぽしっ?あなたいつまでも横たわっていると思ったらっ!」 なりぽしはサングラスなのをいいことに、横たわったままスカートの中を覗こうとしていたらしい、 察した麗子は、ポケットからモデルガンを取り出して・・ バスッ!バスッ! 「うぎゃあっ!痛いです〜、お嬢様ぁ、お許しを〜」 と言う場面を想像したエレインははっと気づく。 麗子はただ銃口を向けただけ。 「き、気にしなくてもいいのよ、なりぽしの悪い病気だから。」 「えっ、なりぽしさん・・ご病気でいらっしゃるんですか?」 「そうね・・悪い癖ということよ。ねっ?なりぽし。」 「うう、もうしませんからぁぁ。」 それはこういうことだった・・
二人を知る者-黒服 定岡の言 1999年XX月XX日 ええ、びっくりしました、突然の銃声となりぽしが脚を押さえてわめく声がして 行ってみたら、お嬢様が青ざめてしゃがみこんでいらっしゃいましたし。 どうやらお嬢様は、なりぽしのロッカーにモデルガンが入っているのをご存じで、 それを抜き出してからかおうと思われたようです・・ でもそれはなりぽしに貸した私の銃なんですよ。 ええ、もちろん本物です。 思えばあの日からお嬢様は変わられたようです。 幸いなりぽしはかすり傷で済んだものの、しばらく職務には復帰できませんでした。 お嬢様はなりぽしの部屋に行かれるようになり、お嬢様の口調も次第に変わられて。 「なりぽしっ、早く治すのよっ!」 「なりぽしっ、これを食べて早く治しなさい。」 「なりぽし、もう痛くない・・?」 「ご、ご免なさい・・本当にご免なさいなりぽし。」 そして、数ヶ月後に2人は・・やれやれ。
「ちょっとぉ!なりぽしさん!騒がしいわよ〜!」 ふと玄関の方から中年女性の声が。 なりぽしは無論、エレインもああいった手合いには慣れていなかった、 しかし、麗子はドアを開けると今は懐かしきあの腕組をしつつ、 「うるさいわね、この庶民っ。」 中年女性は身長が低いせいか、明らかに見下ろされながら言われた口調にすごすごと引き下がる。 「麗子さんって・・頼もしいんですね。」 「お嬢様ぁ。」 二人とも感心している、こんな時は流石に『麗子』だった。 「ふんっ。」 と言いつつもちょっと誇らしげな麗子、しかし、その後はそうはいかなかった。 「・・さぁさ、お二人ともそちらのソファーにおかけください、ここは私が片付けますから。」 二人は大人しくソファーに着く、二人ともお世辞にも片づけが得意とは言えなかったのだ。 それを見てエレインはさっそく片づけを始めた。 しかし、この部屋に来て最初に触れることになった物が、散らばったエアガンのBB弾やらとは。 麗子は片づける様子を見ていないような素振りで、実はじっと見ていた。 今まで、かつての新藤家の使用人の仕事は無論、人の家事など見たことがなかったからだ。 自分の家庭能力には自信がない、そうは言わないものの事実を受け止めていた麗子。 てきぱきと掃除する姿を麗子は羨望のまなざしで見ていた。 「お二人とも、御夕食はいかがなさいますか?」 一通りの片づけが終わると既に良い時間になっていた。 「あ、昨日作った炊き込みご飯があるわ。」 そういって麗子が開けた炊飯器の中はどう贔屓目に見ても’おじや’のようなゆるいご飯だった。 しかも、その上には鯛が丸ごと入っている、新藤家からの差し入れだろうか。 「ほ、ほぐして食べたら鯛ご飯ですわねっ。」 無論、お世辞というか詭弁である。 「あ、あぅぅ、まだ残っていたのですか、お嬢様。」 「何か言って?なりぽし。」 「いえ、何もぉっ。」
再び二人を知る者:黒服 定岡の言 1999年XX月XX日 実はなりぽしは魚が食べられないんです。 しかもなりぽしは、お嬢様がお作りになったお弁当を捨てようすることもしばしば。 私は社長に二人を、特になりぽしを監視するように言われていたのです。 ある日の昼間、なりぽしは会社の焼却炉に弁当の残りを捨てようとしていたのです。 私は300Mぐらいの距離から見ていたのですが、はっきりと解りました。 部下に威嚇射撃させまして、なりぽしは慌てたようです。 遠距離マイクで声を拾ったところ、 「わ、解りましたよぉぉ、食べますよっ食べます、、ぐえぇっ、骨がぁぁ、んぐっ。」 なんとか食べたようです、まったく世話の焼けるというかなんというか。 ・・あいつ幸せなんでしょうか。
「では、これと後は、何か私がおかずをお作りいたしますから。」 「私にも手伝わせて頂戴。」 「でも私が・・」 「いいのよ、少しでも・・」 妻として成長したいのだろうか、麗子はしきりと手伝いたがる。 「それじゃ、いただこうかしら、あ、3人で食べましょう。」 「さあさあ、出来ましたよ」 「なりぽし、私が精魂込めて作ったのよ」 無事料理も済み、明るい表情の女性陣に対し、なりぽしの表情は硬い。 「宜しいんですか?」 「いいのよ、お客様なんだから。」 「そうですか、では、頂きま〜す。」 意外なことに、エレインの箸の持ち方は意外と綺麗だった。 麗子はともかくとして、なりぽしの持ち方は外国人から見ても上手いとはいえない。 麗子にはそれがちょっと悩みの種。 「そうね、私も頂くから・・あ、美味しい・・」 麗子の表情がちょっと陰る、とたんに今までの自分の料理に自信が無くなる。 しかし、元来負けず嫌いの麗子、逆に闘志がわいてきたらしい。 食事中もしきりと色々な作り方とコツを聞き出した。 だが、なりぽしは食事に手を付けていなかった。 「なりぽしどうしたの?頂きなさいよ。」 「・・は、はぃぃぃっ、頂き〜ま〜す〜。」 ・・味が良かろうと、なりぽしにとっては苦痛な食事に代わりはなかった。 新藤家からの差し入れは、なぜか魚介類が多かったからだ。 食後の片づけ時、女性2人は台所に、なりぽしはプラモデルを弄っていた。 「エレインさんの味つけはいいんだけどな〜、魚はやっぱり苦手だな〜」 「・・なりぽしったら・・いつまでも子供みたいに。」 するとエレインが返す。 「でも、そこもお好きなんでしょう?」 「・・・しっ・・なりぽしに聞こえるでしょ。」 途端に赤くなる麗子、伝え聞いていた卯月学園時代の麗子とは違っていた。 その後は、なりぽしも一緒にTVを見て過ごす。 一般視聴者が家庭から持ち寄ったアンティークやらを、 古物商が鑑定するという趣旨の番組だった。 (※映らない方・知らない方、ご免なさい。) 「二人とも、あれは2流品よ、せいぜい50万円というところかしら。」 「でも、あの塗り具合は贋作ではないですよね?」 「あら、けっこうわかるのね・・?」 「ええ、少しは。」 二人は焼き物の見方について話していた。 「・・二人とも何処でわかるんだろうぅ・・?」 なりぽしはやはりアンティークに無縁だった。 そして、鑑定の金額は麗子のいったとおりだった。 「麗子さん、凄いですね。」 「エレインさん、お嬢様の家には沢山ありましたから。」 「それもそうですわね。」 「なりぽしが来てから、いくつかゴミになったわね。」 「あうぅぅ、社長や奥様には怒られましたぁぁ。」 そのあと、バラエティー番組を見ながら笑うなりぽしを後目に 麗子が立ち上がりながら声を掛ける。 「エレインさん、お風呂一緒にどうかしら?」 「え?お嬢様、じゃあ私も一緒に。」 「なりぽしっっ!」 「はう。言ってみただけなのに」 ただおろおろと、状況を見守るだけのエレイン。 「まったく。二人だけの時ならともかく...」 「え?そうなんですか。」 とたんに頬が赤く染まる。 「あ。気にしなくていいのよ、エレインさん。じゃあ、一緒に」 「はい」 「......」 「どうしたの?」 「麗子さんって、スタイルいいんですねえ」 「あら、エレインさんだって可愛いわよ」 「でも、麗子さんみたいなプロポーションって、あこがれちゃいます。 やっぱり男の方って、胸があった方が嬉しいんでしょうし...」 誰のことを思い浮かべるのか、真っ赤になって、小さな声で呟く。 「それは、人それぞれだと思うけど....。そこ!」 いきなり、浴室の扉に向かって、手桶の水をぶちまける。 「はう〜〜〜、もう少しだったのに〜」 あわてたように、扉が閉まる。 「....今のは」 「まったく。しょうがないんだから」 「なりぽしさんって、子供みたいですね」 「まったく。もうちょっとしっかりして欲しい物だわ」 そう言いながらも、麗子の顔は楽しそうに微笑んでいる。 「本当に愛し合ってるんですね」 「そうね。今は、なりぽしとこの子がいれば幸せよ」 お腹をさすりながら本当に幸せそうに微笑む麗子。 「いいな、私もいつか旦那様と...」 エレインのつぶやきは、水の音にかき消され、誰の耳にも届かなかった。 二人が風呂から上がるとなりぽしが寝具に着替えていた 「あ、なりぽしはそろそろ寝ますぅぅ、明日は早いのです。」 そして、なりぽしは麗子に小さな声で耳打ちする。 「お、お嬢様、今晩は〜?」 「ば、バカね、無しよ無しっ!」 麗子はなりぽしを突き放す。 「あぅぅ、じゃ二人ともお休みなさいぃ。」 「おやすみ、なりぽし。」 「おやすみなさいませ、なりぽしさん。」 その後も女性二人で、夜遅くまで歓談は続いた。 「はぁ、なりぽしももう少ししっかりしていればね。」 「でも、そこもお好きなんですよね?」 「・・・・・」 またもや、黙って頷く麗子。 「では幸せですね、お二人とも。」 その間、なりぽしはぐっすり眠っていた、麗子の夢を見つつ・・ END
〜後書き〜
『旦那様、全然終わってませんよ、まだ序盤のようにも。』
「しっ、黙っていれば大丈夫。」
『そういうものなんでしょうか?きっとどなたかの突っ込みが入りません?』
「入るまで何も言わないんだ、いいね?」
『はい・・旦那様。くすっ』
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