もどれない秋(とき)

 チチ戦争のお相手いずみの真面目なお話です。
 すさんが運営していたいずみ萌えサイト【お昼寝宮】閉鎖の時に、はわいこなさんが贈られたSSの
 【れいなり】バージョンになります。
 
 あ、後書きは【お昼寝宮】バージョンですぅぅぅ。
 (すさんから提供していただきました〜♪ m(_ _)m )


ふわりふわりと身体が浮かんで漂っているみたいな感覚。どこかの知らない小父さんが見えてくる。
誰だろう? 側にはお母さんがいる。
 でも直ぐに、私は差し出されたパフェにパクに目を奪われた。
 テーブルの向こうに座っている前髪を垂らした小父さんは、にこにこ微笑みながら私を見ている。
 小父さんはどこかだらしなくて、どこか憎めない雰囲気があった。 
「いずみも瑠菜も元気そうだな……」
「まあ……なんとかやっているよ」
「そのしゃべり方、変わらんな」
「ふふふ。あれだけ苦労したのに、人間って、そうそう変わらないんだな」
 小父さんの言い方に、お母さんは苦笑気味に言い返した。
「ごめんね、竜之介」
 ごめんね? お母さんは何か悪いことをしたのだろうか? 
 でも小さい私は目の前のパフェに夢中で、お母さんの顔は見なかった。
「いや、悪いのは俺だ。もっと早くうだつが上がることもできたんだが、意地を張ってしまった」
「運命とは言いたくないけど、巡り合わせが悪かったのかな」
 小父さんもお母さんも、何か気まずい雰囲気。
「この子のために、おれが意地を捨てれば良かったんだ……」
「やっぱり悪いのは私だよ。竜之介と駆け落ち同然で出て行ったは良いけれど、私がひとりで負けたんだもの。 浅はかだったなぁ……」
 お母さんはティーカップを口につけた。
 何か苦いような言葉を吐いている。
「竜之介の子供を産めば乗り切れると思った。バカだった。愛さえあれば何とかなるって思ったけど……。
 瑠菜、お口を汚しちゃだめだよ」
 お母さんは私のお口を拭いてくれた。
「結局、私は竜之介の愛を信じられず、それで子供という愛の結晶に縋ろうとしたんだ」
「俺も、もっといずみに構っていれば良かったんだ。そうすれば、瑠菜を産むことも先に延ばせれたはずだ」
 早すぎた私が原因でお母さんたちは過ちを犯したみたい。
「子供がいれば、私はがんばれると思ったんだ」
「いや、いずみはよくがんばったじゃないか」
「…………」
「がんばったと思うよ」
「本当に、そう思っているのか?」
「ああ、本当だ」
「ありがとう……」
 お母さんは、ほっとしたみたい。こんな穏やかな顔のお母さんは、生まれて初めて見た。
「俺の過ちは、いずみはいつまでも俺の奥さんだと思ったことかな。子供を産んだ女の人はお母さんなんだ。
 あの時は、このことが解らなかったよ」
「瑠菜が麻疹をこじらせたあの時のことだね。いや、私が不注意でこじらせてしまった……」
「万策尽きた時、俺、もうこの子はだめなんだと思った。俺が瑠菜を死なせるんだと思った。そうしたら……」
「ええ、私が篠原家に連絡して、この子の治療費一切を賄ってもらった。でも、その引き替え条件は私が家に
 戻ってくること……」
「泣いて叫んだよな。瑠菜が生きるのなら俺に恨まれたって良い。この子を死なせたくないって」
 小父さんとお母さんの目が潤んでいた。
「あの時いずみは母親を取ったんだな」
「竜之介、私を恨んだ?」
「恨まなかったと言えば嘘になるだろうな。でも、あの場合は、いずみでなくても誰だってああしたと思う。
 唯でも友美でもね」
「唯に友美か。何だか懐かしいなぁ」
 小父さんとお母さんの目が、すっと遠くを見ているような気がする。
「いずみ、瑠菜を頼むな。俺たちの失敗を瑠菜にさせないでくれ。バカな男に惚れないようにしてくれ」
「竜之介は……バカな男じゃないぞ」
 お母さんは小父さんを睨んだ。
「じゃあ、言い直すよ。瑠菜がバカなことをしでかさないようにな」
 お母さんは悲しく笑った。
 小父さんは、パフェを食べ終わっていた私の頭に手を置いて言った。
「瑠菜ちゃん、お母さんの言いつけはよく聞いてね。決してお母さんを悲しませないようにね。お母さんを悲しませるのは、小父さんだけでたくさんだから」
「うん、わかった!」
 はっきり、大きい声で言った私に、小父さんはうんうんとうなずいた。



 かくんと揺れた感覚が、私を目覚めさせた。
「どうしたの、瑠菜? うたたねなんかして」
「あっ、お母さん……」
 私はいつの間にか夢の中に行っていたみたい。
「なんだか、昔の夢を見ていたみたいなの」
「昔の? 誰がいたのかしら」
 お母さんはティーカップを手にしていた。
「前髪をこう……垂らした小父さんがお母さんと話していたの」
 自分の前髪をストレートに持っていったら、カップを口許に持っていったお母さんの手が止まった。
 それに不自然なものを感じた私は、お母さんに訊いてみた。
「お母さん、あの小父さんは私のお父さん……でしょう?」
 だけど、お母さんは肯定も否定もしなかった。ただ黙っていただけ。
「やっぱり、お父さんなんだ」
 それでもお母さんは答えてくれなかったけど、私はそれを肯定と受け取った。
「それよりも、八十八学園最後の年ね。どうなの?」
 お母さんは不自然に話題を変える。
「どうなのって?」
「ボーイフレンドの1人や2人くらい、家に連れてこれそう?」
 いたずらっ子みたいに、お母さんはクスッと笑った。
「えへへ、どうかな」
 私は含み笑いで答える。
「ん? 誰か好きな人がいるのかな」
「実はね、喫茶店憩の鳴沢君っていいかなぁなんて……」
「(竜之介、この子も恋をする年頃になったわよ。巡り巡って、娘も同じような恋をするのかしらね……)」
 心の内で、お母さんがこう言ったことを、私は知らない。私は鳴沢君のことを話していた。

あとがき

 「ハワイコナさん、ひどい!」
 「すまん」
 「それだけ?」
 「それだけ」
 「すまんで済むか〜〜〜!!」
  ドカ!!!(゜o゚(○=(-_-○
 「いい右ストレート持ってるじゃないか……」
 「お昼寝宮、最期だからって、なりぽしさんは私のウエディングドレスのCGくれたんだぞ」
 「最後が正しい。最期は、死んじゃって後がない時に使う……」
 「竜之介と終わりじゃないか。なんでハッピーなSSを書いてくれないんだよ」
 「ハッピーなSSは、地上の星座が相場と決まっているし……。今や私のSSは、死人が出るこ
 とで有名だ(?) 死ななかっただけでも、ありがたいと思え」
 「いばるな〜〜〜!!!」
  ドカ!!!(゜o゚(○=(-_-○
 「私、すさんに断固抗議する。絶対載せないようにって言うからな」
 「やっぱり、怒るわな。本当は赤ちゃんを抱いているいずみをイメージしたんだが。おい、なぜ
  そこで止まる?」
 「それをなぜ書かなかったんだ?」
 「聞いて驚け。一億と三つのパターンを読んだところ、地上の星座の最終回で、すさんが使うか
  もしれないと思ってさ」
 「お前は将棋の佐藤康光九段か〜〜〜?」(佐藤九段は一億と三手読むと言われています)
  ドカ!!!(゜o゚(○=(-_-○
 「あれ? 自分が死んだか……。なかったことにしようっと」
 「(私は何回いずみに殺されたんだろう?)」


頂きものへ戻る
「チチ戦争2」へ戻る