「サンタが奈留に会いに来た」 |
ぐすっ。なんでサンタさんは、奈留のところに来てくれないのかな。
かあさまは、サンタさんは奈留より辛い子たちから回るんだって言っていたけど。
だけど、奈留はさびしい。
奈留だって、がんばっていい子にしてたのに。
サンタさんって、本当にいるのかな‥‥‥‥‥。
「ぐすっ、ぐすっ、ぐすっ‥‥‥」
泣くのを懸命に堪えている女の子。
嫌われたくない一心で耐えている。
端から見ると、既に泣いているのだが、本人は泣いていないつもりなのだろう。
が、我が娘の姿を見ると、親として忸怩たるものがある。
明日という日を迎えるのが辛い。
明日になれば奈留のお友達が、クリスマスプレゼントの自慢をするだろう。
「はあ‥‥‥」
我が娘を胸に抱きしめていた麗子は、ため息をついた。
次の瞬間、激しく嫌悪した。
これでは、我が夫の不甲斐なさを無意識に言っているように取られかねない。
夫に不満などない。
新藤家の後継者としての重圧に負けまいと思い虚勢を張っていたあの頃。
虚勢と言うよりは、子供っぽい背伸びと言った方が当たっていたかもしれない。
そんな自分を、夫は優しく包んでくれた。
全てを受け入れてくれた。
奈留を身ごもったがために、夫が新藤家を追われても、後を追うのにためらいなどなかった。
愛する人と一緒にいられるのなら、新藤家など何ほどのものであろうか。
現に、親娘3人川の字で、ひとつの布団で寝る暮らしではあるが、幸せだと思っている。
ビッビー。
ブザーが鳴った。
チャイムではなくブザーが鳴った。
丸く中に白ぽっちのスイッチを、この夜に押す酔狂な者がいるようだ。
家を間違えているのではないか、と麗子は思った。
ビッビー。
また、ブザーがなった。
せっかく奈留が寝ようとしていた矢先なのに、そう思いながら、麗子は起きあがった。
ビッビー。
三度(みたび)ブザーが鳴った。
「はいはい、今行きます」
夜なのだ。ちょっとしつこい。麗子と夫に続いて奈留も付いていく。
カチャ。
ドアを開けると、サンタさんが立っていた。
「やあ奈留ちゃん。いい子にしていたかな?」
「サンタさん! うん、奈留はいい子にしていたよ」
「そうか。奈留ちゃんはえらいねえ。いい子にしていたご褒美だ、はい、クマのぬいぐるみじゃ」
サンタさんは、大きなぬいぐるみを奈留に手渡した。
「わあ、クマさんだぁ」
可愛い瞳が大きくなった。
「あのう、どなたでしょうか?」
「かあさま、サンタさんだよ」
「はい、わたしサンタさんです」
米国大統領の宣誓式よろしく、サンタさんは右手を挙げて宣った。
麗子は疑わしい目を向けている。
それはそうだ。大の大人がサンタさんだと言われて、素直に信じられる訳がない。
「奈留ちゃんは、いい子にしてたかな?」
「うん。にんじんも食べたし、とうさまの嫌いなお魚も残さず奈留は食べたんだよ」
「そうかそうか。奈留ちゃんは、お父さんよりえらいんだねえ」
親の威厳が飛んでいった。
「ご褒美じゃ。おーい、こっちこっち」
サンタさんに呼ばれてやって来たのは、本物の大きなクマさんのぬいぐるみだった。
「こんばんは、奈留ちゃん」
大きなクマさんがしゃべった。
「わあ‥‥‥」
子供にとって、本当のクマさんが遊びに来たと思ったのだろう。
さっそくクマさんを家の中に引き込んだ。
「ぷはあ」
クマさんが音を上げた。
「子供って、ドえらいエネルギーしているなぁ」
「ご苦労様でした、いずみさん」
麗子はいずみにお茶をだした。
汗だくないずみは、お茶を美味しそうに飲む。
遊び疲れて寝るまで、奈留に付き合わされた。
「すさん、ありがとうございました」
サンタさんは、すさんで、クマさんは、いずみだったのだ。
「ごめんね、なりぽしさん。いきなりお邪魔して」
すさんが、付け髭を外しながら言った。
「いいえ。奈留も喜んでましたし、これで、明日お友達に会っても、さびしい思いをしなくてすむでしょう」
「そっか」
余計なことをしたかもと思わなくもなかった。
その一言で、ほっとした。
帰る前に、奈留を見る。
ぬいぐるみを抱きしめて寝ている。
可愛い顔だなぁと、いずみは思った。
お礼の言葉
オールド・ハワイコナさんから10000HITのお祝いに頂いた奈留SSです。
10000HIT記念になりぽしが書いたSS「泣く奈留」の続きになります。
麗子の親と和解する前の生活の苦しいなりぽし家に、幸せを運んでくれたのは・・・・
「チチ戦争」を引っ張ってくれたハワイコナさんらしいお話しです。
すさんや、いずみさん、そして・・・ハワイコナコウノトリにも愛されて当家の奈留は
幸せのようです。
ハワイコナさんありがとうございました。 (。・_・。)ノ
涙/tears |
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ありがとうございました。 |