カードキャプチャーさくら〜黒衣の花嫁〜
最終話   【新たなる始まり】



【新たなる始まり】


 陽だまりの中に、ひとりの男が佇んでいた。
 眠っているのだろうか、安らかな顔をしている。

「小狼叔父上」

 傍らに別の男が立った。

「小龍か」

「はい」

 小狼は振り向きもせずに返事をする。

「リチャード・王の魄が出たそうだな」

「はい」

 小龍の声に緊張の色があった。

「あいつ、おれの眼では不足だというんだな・・・」

 小狼の瞼は、あれ以来開くことはなかった。

 予期していたこととはいえ、とうとうこの日が来たか、という思いもあった。
 2人の間に風が吹いた。
 風の後を追うように声がする。

「北斗君、また重たくなったわね」

「ええ、健やかに育ってくれています」

「それは良いことだわ」

「それで、叔母上様。お聞きしたいことがあって・・・」

「なあに」

 小龍の妻とさくらの話し声が聞こえた。

「おれは過ちを犯したのかもしれない。あの時リチャード・王を倒すのではなく、護りに徹しておまえの成長を待つべき
だったのかもしれない」

 小狼の声には禍根があった。

 さくらを手にすることが叶わなかったリチャード・王ならば、確実に小龍は勝てた。
 が、陰(オニ)となったリチャード・王は手ごわい。

「だが、おれは迦楼羅の力で倒してしまった。迦楼羅の力ならば、おまえを護れたはずだ」

「ですが叔父上。仮に叔父上がそうしたとしても、リチャード・王は必ず隙を突いてきたでしょう。李家の多くの者が犠牲
になったはずです」

「だがなぁ・・・」

 どれが正しかったのかは、わからない。
 今でも、あの時の事が正しかったとも、間違っていたとも判断がつかない。
 リチャード・王を倒したことで今日までの安泰を得たともいえる。
 しかし、先送りにしたともいえる、しかもリチャード・王を強力にして。

「小龍」

「なんでしょうか、叔父上」

「今度こそ、リチャード・王の魄を地に還してやってくれ」

 小龍は詰まった。
 必ず勝つという保証はなかった。

「小龍。北斗は、我が子は可愛いか?」

「はい。それはもう」

 云われるまでもなかった。

「ならば勝て。必ず生きて帰れ。死ぬことは許さん」

「・・・・・」

 小狼に真剣を突きつけられたような気になった。

「おまえなら絶対に・・・」

 云いかけて小狼は苦笑した。

「これは、さくらに云ってもらった方がいいな」

「叔母上の無敵の呪文ですね」

 小龍も肩の力が抜けたように微笑んだ。

「しゃおらあん、小龍君もぉ、お茶が入ったわよぉ」

 柔らかな日差しの中に、さくらの声が響いた。



 了




  オールド・ハワイコナさんのSS  『CCさくら〜黒衣の花嫁〜』とうとう最終話の掲載ですぅぅぅ。
  
  小狼から甥の小龍へ・・・新たなお話がはじまるのですね。
  素晴らしい作品をくださった、はわいこなさんに感謝を。
  そして最後まで読んでくださったみなさんに感謝を。  

ありがとうございました。
戻る