たんぽぽ
何故、私は心を開いてしまったんだろう?
あの時の彼と同じ目をしたあの人に。
いつものように拒絶してしまえば良かった。
人を好きになんてなるんじゃなかった。
何故、俺は彼女の心の扉を開いてしまったんだろう?
もしこうなることがわかっていたなら...。
いや、それでも俺は彼女とのつながりを求めてしまったかも知れない。
それが自分自身のエゴだと知りながら。
彼女を苦しめるだけだと知っていながら。
もう誰も愛さないつもりだった。
残される苦しみは嫌と言うほどわかっているから。
誰にも心を開くつもりはなかったのに。
いつの間にか、彼は私の心の中に潜り込んでいた。
違う。
心を開いたのは私。
あの人の目に、彼と同じ目に惹かれたのは私。
その時から、こうなるような気はしていた。
それでも、私はあの人を拒絶できなかった。
無理矢理彼女の心の扉をこじ開けたのは俺。
愛していた。
ずっと一緒にいたかった。
ずっと一緒のはずだった。
でも俺は、彼女を残してここに来てしまった。
なんて残酷な...。
やっと笑顔を取り戻した彼女を置き去りにして。
何故私を愛したの?
ずっと一緒って約束したのに。
何故みんな、私を置いていってしまうの?
何故私だけが残されるの?
机の上には、目覚まし時計。
あの人の誕生日に上げるはずだった、濡れて動かなくなった目覚まし時計。
その機能を果たす前に、壊れてしまった。
あの人と共に生きようとしたとたんに、一人になった私のよう。
忘れるつもりだった。
今度こそ、他の人と同じように...。
でも、私はまた、あの人のことを考えている。
また、私だけがあの人のことを覚えている。
...少し嬉しい。それだけ、私があの人にとって特別だったと言うことだから。
...でも悲しい。思いでだけにしがみついて生きていくのは悲しい。
彼女は、俺のことを覚えているだろうか?
出来れば、忘れていて欲しい。
彼女が俺との思い出にとらわれないように。
やっと取り戻した笑顔と共に生きていけるように。
新しく恋をすることに臆病にならないように。
忘れていて欲しい。
残してしまった者より、残されてしまった者の方が悲しいから。
俺はもう、そばにいて上げることが出来ないかも知れないから。
違う。
大事なのは自分の気持ち。
あの人を受け入れた私の気持ち。
あの人を愛した自分の気持ち。
これは、私だけの宝物。
誰にも触れることの出来ない私だけの宝物。
それに、あの人は約束してくれた。
帰ってくるって約束してくれた。
だから、私は今日も待っている。
あの人が帰ってくると言ったから。
だから...私はあの人を待とう。
いつまで?
わからない。
考えたくない。
あの人と最後に交わした約束だから。
あの人が約束を破る事なんて考えない。
本当に俺はそれを望んでいるのか?
彼女が他の誰かと生きていくことを。
...ほかに何を望むことが出来るだろう?今の俺に。
本当は、彼女のそばにいたい。
彼女に会いたい。
彼女のぬくもりを感じたい。
彼女の笑顔が見たい。
彼女の涙を拭ってあげたい。
帰らなきゃ。
俺は、彼女と約束した。
必ず帰ると約束した。
だからきっと彼女は待っているだろう。
いつものピンクの傘を差して。
本当の感情を読まれまいと、無表情で。
帰らなきゃ。
彼女の笑顔を消さないために。
帰らなきゃ。
彼女が風邪を引かない内に。
帰らなきゃ。
彼女が泣き出してしまわない内に。
「...ただいま、茜」
「お帰りなさい...浩平」
ど〜も。
す です。
前回は、ウチの記念Hitプレゼントでしたので、純粋な投稿としては初めてですね。
今回は、なりぽしさんONEに転んじゃった記念(違)
15000Hit記念SSです。
ここの15000Hit記念なのに、何故か「ONE」のSSになってしまいましたが。(苦笑)
う〜ん。
なんだか、私の作品で似たような物があるような気がしないでもないですが。
今回は、「せつなさ」を主眼に書いてみたんですが、いかがでしょう?もう一つかな。
気に入っていただけるといいのですが。